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音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.55 韓国映画やドラマに出てくる「サグァ」

今もしお見合いをしたら「趣味は旅行と韓国の映画やドラマを観ることです」と自己紹介するんじゃないかってくらい韓国ものにハマっています。個人的に韓国ものの魅力は俳優陣の演技力のすばらしさだと感じていて、中には観終わった後に「作品自体はあまり大した出来ではなかったような」と思うものも、俳優の演技の力技で最後まで持っていかれるパターンも多いです。

最初にきちんと観た韓国映画は、パートナーがイ・ジュンギにハマっていたから一緒に映画館に観に行った「王の男」だと思います。僕の記憶ではサウンドトラックがとても良かった。サントラと言えばメインテーマのメロディがいつまでも頭から離れないのが、カンヌ映画祭でグランプリに輝き韓国映画のポテンシャルを世界中に見せつけたパク・チャヌク監督の「オールド・ボーイ」でしょうか。僕は大学時代ジャズ研究会にいたのですが、現役時代にもしこれらの曲を知っていたら絶対にカヴァーしたはず。

今では執筆と家事の合間にはずっと韓国ものを観ている有様です。なんたって地上波、BS、ケーブルテレビのいたるところで韓国作品が放映されているうえNetflixなどのサブスクなんかもあるのが悪い(笑)テレビチャンネルの多様化が進んだ近年ですが、そんな中、他国の、それもある一国の作品がここまでたくさん放映されているのってよく考えてみたらとても驚くべき状況です。映像コンテンツでなくとも、昨年の紅白では4組のK-POPグループが出演しました。K-POPについては後に触れます。

小ささが特徴の品種その1「さんさ」

さてそんなこんなで韓国の映画やドラマをたくさん観てきたここ数年、とても気になったのが明らかに日本の映画よりも頻出する2つのシーン。1つ目は携帯やスマホで登場人物同士が話していて、一方が自分の言いたいことだけ言ったらいきなり通話を切り、もう一方が「先に切りやがった」と怒ったり呆れて苦笑するようなシーンです。日本の作品とくらべ、明らかに出てくる率が高い。

今パッと思いつく例は人気俳優マ・ドンソク主演のアクション・シリーズ「犯罪都市」の第2作。同じく人気俳優のソン・ソック演じる悪役がお金持ちを誘拐するのですが、その妻に身代金を要求する電話をかけたところ、彼女は意外な気丈さを発揮して自分のペースで話を進め、いきなりガチャっと切ってしまうのです。この時ソン・ソックが自分の携帯を見て「切りやがったよ」とつぶやきます。類似のシーンがほんと多いので、その点に注目して韓国ものを見てみてください。

こんなに頻出するのは、何か理由があるのでしょうか。こういう時は専門家に訊いてみましょう。つてでご紹介いただいた韓流メディア編集者の野田智代さんにうかがってみました。「作品一つ一つの意図はそれぞれのシーンを見たり関係者に訊かないとわからないので、あくまで一般論としての見解ですが」と前置きされたうえで、興味深いご意見をいただきました。要約になりますが、書いてみます。

 韓国人は日本人とくらべると喜怒哀楽が激しく、映画やドラマでは特にそれがデフォルメされています。また韓国ものは昔から携帯やスマホがものすごくよく登場してきました。例えば怒って携帯を投げつけたりバッテリーを引っこ抜いたり、登場人物の感情の演出として「電話での会話」がいかに大事にされているかが見てとれると思います。
 もう一点、スマホが頻出するのは間接広告(PPL)も理由です。サムスンやギャラクシーが強力なスポンサーになっていると、そこのスマホがよく登場します。とにかくスマホが出てこない韓国ドラマはないんじゃないかというくらいスマホだらけで、わざとスマホを登場させるために通話やチャットのシーンを作っているのでは、という逆説も考えられます。
 ちなみに私が思い浮かぶのは、、電話がかかってきて「え?なんだって??」と神妙な面持ちになるシリアス展開です(笑)そこでだいたい、新しい真実が分かるか、誰かが死んだか。   byサスペンス

PPLについては、僕もちょっとそうじゃないのかなと予想していました。例えば最近観たドラマ「SKYキャッスル」では、袋から直接飲むタイプの栄養ドリンクみたいな商品が不自然なくらいやたら出てきました。きっとそこの製造会社がスポンサーになっているんですね。過剰なまでに商品名や店名を隠すNHKの逆パターンと言えばわかりやすいでしょうか。似たようなシーンはビールとか食品などなどいろいろあるので、その点に注目して韓国ものを観てみるのも面白いかもしれません。

小ささが特徴の品種その2「アンビシャス」

さて韓国ものの頻出シーン、もう一つは「リンゴを食べる」です。正直、韓国作品を観るようになってしばらくしてからも韓国の人に対して「リンゴをよく食べる」というイメージは持っていなかったんですね。ところがいったん目に入ると出てくる出てくる。そしてほとんどの場合、皮をむいて食べている。これ、青森県民的には「皮むくなんて、もったいない!」なんですが、リンゴのシーンについても野田智代さんにうかがいました。韓国の人って、リンゴ好きなんですか?

 はい、韓国人は、りんご大好きです。よく食後の口直しで食べますよ。そもそも、日本人より果物を日常的に摂取します。あと、チェサといって先祖様の法事を頻繁にするのですが、そのときは必ずりんごと梨をお供えします。それくらいにりんごは、生きていても死んだあとも、よく食べます。また上の一部だけ皮を剥いてお供えする、独特の風習があります。
 食後にりんごをよく食べるのはドラマや映画でもよく出てきて、その時に特徴的なのが、皮はキッチンで剥いてきて出すのではなく家族の目の前で、会話とかしながらまな板を使わずに剥いています。お皿と果物ナイフだけをつかって器用にカットしています。韓国のりんごは少し小ぶりで手のひらに収まるサイズなので、日本みたいにくるくる一本で剥くのではなく、まな板とかも使わず、手のひらにもちながら、斜めにカットしていくんですよねー。
 ドラマ・映画とりんごで外せないのが、「りんご」と「謝罪」がどちらも「サグァ」という同音異義語のため「ごめんなさい」って言いたいときに、りんごやリンゴジュースが出てくること。「はいっ」て差し出したりしますが、ここに台詞がなければ字幕にならないので、日本人は、なんでここでりんごが出てくるのか、よくわからないかもしれませんがよく出てきます。韓国ドラマにとって、りんごは「一家団欒の象徴」、そして「おわびの印」ですね。

会話しながら皮をむく、は確かによく出てきます! 今回コメントいただいて再認識しました。また「同音異義語」のくだりはとても面白いですね。やはり専門家の方にお訊きすると新しい発見があります。リンゴが身近にある青森県民のみなさんは、以上の点に注目して見るとより面白いかも。野田さん、ありがとうございました!

小ささが特徴の品種その3「こうとく」

さて、映画やドラマと同じく世界を席巻する勢いのエンターテインメントがK-POPです。僕は今51歳ですが、自分が若いころってこんな状況ではありませんでしたし、こうなることもまったく予測できませんでした。個人的に日本の音楽ファンの恵まれている?ところは多様なジャンル特化型音楽ライターがいることだと思います。僕もそういう人間の一人(ポーランドや中欧の現代ジャズ専門)だと自負しているのですが、単にジャンル特化というだけでなく、ほとんどゼロの状態から普及に努めてきたという意味でものすごく共感&リスペクトしているのが「K-POP番長」の異名を持つ、まつもとたくおさんです。

まつもとたくおさんによる昨年のK-POPまとめ記事
https://www.newsweekjapan.jp/matsumoto/2024/12/2024k-pop1.php

実は、先にコメントいただいた野田智代さんもまつもとさんにご紹介いただきました。韓国音楽や文化に関するご著書やメディア出演なども多数あるまつもとさんも、K-POPについて書きはじめた当初は誰も関心を持っていなかったジャンルだと仰っています。片やポップで片やジャズ、片や同じアジアで片や遠いヨーロッパと書いているジャンルは全く別なのですが、この「日本ではほとんど誰も興味を持っていなかった」段階からずっとそのジャンルについてやり続けてきた、というところがまつもとさんと僕の共通ポイントなのかな、と勝手に考えています。

まつもとさんのお仕事ぶりで面白いのは、アイドルや歌も歌っている俳優などへのインタビューでも音楽のことしか訊かないということを徹底されているところですね。世間をにぎわせているゴシップネタとか私生活や恋愛観みたいなところは完全スルー。自分は音楽ライターなんだ、というプライドを感じる姿勢です。

上記まつもとさん記事でも紹介されているガールズグループNewJeansのヒット曲。さっくりしたジャングルビートと日英韓ミックスの歌詞が印象的

今回野田さんに教えていただいたようなところにフォーカスしながら韓国映画やドラマを観るとまた違う楽しみ方ができるかもですね。そしてまつもとさんのお仕事を参考にK-POP沼にもハマっちゃいましょう。そのお供は、もちろんリンゴですよね。

2025/2/14

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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