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音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.19 雪もリンゴもボツネタも再利用しちゃえ!

昨年度の冬は、東京での積雪はじめ記録的な大雪のニュースが相次ぎました。例年の3倍近く積もったという福井市など本当に大変そうでしたね。新潟県での列車立ち往生なんていうのもありました。私の住む青森市も「人口30万人以上では世界一の豪雪都市」として有名ですが、日本各地で大変なことになっているのにこちらは例年と積雪量が変わらなかった。自然ってよくわからないですね。そんな雪も、すっかり姿を消してしまいました。街には今、春のにおいを載せたそよ風が吹いています。

豪雪地帯の住人として雪はおなじみですが、毎年思うのは、あれほど大量にあるものが溶けてなくなってしまうのって、どうにかエネルギーとして再利用できないものだろうかということです。ものすごくもったいないですよね。もし大量の雪をかんたんにエネルギーに変換できるシステムが完成したら、豪雪の自治体はエネルギー大国になり、井上ひさしの『吉里吉里人』みたいに日本から独立できてしまうかもしれません。なんたって勝手にどんどん降ってきてくれますしね。一般的に豪雪はその土地のデメリットとして捉えられていますが、一転して天の恵みになるのです。デビュー作『暗黒女子』が映画化された話題のミステリ作家、秋吉理香子の『サイレンス』でも北国の離島での町おこしの一環として雪の再利用が描かれていました。

ということを考えていたら、リンゴの場合はどうだろうと思いつきました。以前この連載で「皮ごと食べる」ということについて書きましたが、どうしても残る部分があります。芯ですね。リンゴを皮ごと食べるか、むいて食べるか派では分かれるでしょうが、まさか芯も食べちゃう派の人はいないですよね(笑)。つまり、芯は食べる以外の使い方をしない限り捨てられてしまうというわけです。そう言えばリンゴの芯を何かに使ったことってないなあ、とネットでちょっと調べてみたら、けっこう再利用の方法が出てきますね。湯船に浮かべるとか、台所掃除に使うとか。興味があったらみなさんも検索してみてください。

さて、音楽で再利用と言えば「サンプリング・ネタ」でしょう。主にヒップホップなどで過去のレコードの音源の一部だけをカットし、テンポを変えたりループ(繰り返し)させたりしてトラックの一部として使用する手法です。つまり、過去の録音物の再利用です。最近は音楽史に残る偉大なドラマー、バーナード・パーディー(故人)の「ダチーチーチー」が音楽ファン以外の人にも話題になりましたね。パーディーは数多くのレコーディングセッションに参加した名手なのですが、彼のお得意フレーズがバスドラムのキックとハイハットの三連打と組み合わせたフィル(ドラムの短いフレーズ)なのです。例えばDJは、ターンテーブル上でパーディーが演奏するレコードをプレイし、そのダチーチーチーの部分だけを延々とループしてリズムを作るわけですね。

昨年12月には、日本のレーベルP-VINEからパ―ディーの「ダチーチーチー」の名演が聴けるコンピレーションも発売されました。ダチーチーチー、わかります?

テニスの錦織圭選手も愛聴しているという日本のトラックメイカーNujabes(本名:瀬場淳。2010年に交通事故で逝去)のこの曲は、アメリカのサックス奏者ファラオ・サンダースの「Save The Children」をネタとして使っています。

さて、音楽や芸術で再利用と言うと、もうひとつ思いついたことがあります。チェコ出身の大作曲家ドヴォルザークはご存知ですよね。ちなみに、ドヴォルザークではなくて「ドヴォジャーク」がより原語に近い発音です。彼は「ボツにしてゴミ箱に捨てた楽譜を使えば名曲がいくらでも生まれる」と言われたほどの優れたメロディメイカーでした。それら名曲になり得たかもしれない旋律の数々は、ドヴォルザークの厳しすぎる判断基準の中で消えていったわけですが、なんかもったいなくありませんか? あと、トリックが湯水のように湧き出ていくらでも作品が書けたという日本のミステリ作家・山村美紗とか。彼女が採用しなかったアイディアの中にも、優れたものがたくさんあったはずです。

こちらは超有名なドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第4楽章。
ベネズエラ出身の若きマエストロ、グスターボ・ドゥダメルの指揮でどうぞ。この動画、なんと再生回数530万回以上!

そこで考えたのですが、小説家や作曲家が「自分の作品ではもう使わない」と判断したアイディアや文章の切れ端、メロディーの断片などをオープンソースとして公開するという「ネタバンク」というのはどうでしょう。創作に悩む若者たちの発想のヒントにもなるでしょうし、再利用も可。作曲や楽器の演奏をしないかわりに過去の音源を使って優れたトラックを作り出すDJのような才能のあり方もあります。小説や作曲の分野でも、発想力に乏しいかわりに、素材を組み合わせて面白い作品を生み出す人が出てくるかもしれません。難しいのは権利問題ですが、まあとりあえず面白い芸術が少しでも多く生み出されるなら、人間社会にとってはメリットなのではないかと思います。

今回は、青森市の豪雪とリンゴの芯から、そんな発想をしてみました。うーん、でも、リンゴの芯を食べ物として再利用とかできないものですかねえ? 雪の再利用も、どなたか発明してください!

2018/4/28

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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