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音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.53 絵本に捧げる金のリンゴ

みなさんは、絵本を読んで育ちましたか。お気に入りの絵本はありますか。僕は最近「図書館ウォーカー」を名乗って全国各地の図書館をめぐったりしていますし、本もたくさん読むほうなので「本好き」だというイメージが強いようなのですが、実は特に愛書家だったり読書好きだったりするわけではありません。

個人的には、本好きの人ってだいたい小さいころに絵本をたくさん読んでいたのではないかと想像しています。ところが僕は絵本は全然読んでなくて、名作もほとんど知りません。母によると、どうも怪獣大百科とか図鑑みたいなのを読んで、意味がわからないものを質問しながら字や言葉の意味を覚えていったらしいです。というわけで、僕は大人になってから絵本にはじめて出合っていくという変わった体験をしています。

絵本がたくさん読める場所と言えば何と言っても図書館の児童コーナーです。僕が知っている数少ない名作絵本も、以前図書館で働いていた時に時々児童コーナーに配属されることがあって、その時に職業上の必須知識として勉強したものです。さて、日本にはそれのスペシャル版みたいな図書館があります。東京の上野にある、国際子ども図書館です。

建築の楽しさも味わえる国際子ども図書館

ここは国立国会図書館のうち児童書を専門に取り扱った館で、かつての帝国図書館をリノベーションして利用しているため、歴史的な建築デザインの魅力も味わえる館になっています。リノベの設計は、近年図書館に積極的に関わっている安藤忠雄さんなど。この図書館に行けば、日本のものだけでなく世界中の絵本を楽しむことができます。

つい先日、数年ぶりにこの国際子ども図書館を訪ねてみたのですが、2階の児童書ギャラリーですばらしい絵本に出合いました。このギャラリーでは児童書や絵本の日本における歴史を学べるよう、年代ごとの代表的な作品を展示しています。その中に「のらいぬ」という絵本がありました。絵は谷内こうたさん、作は蔵冨千鶴子さん。ちなみに図書館では、作者の名字の読みの最初の1文字か2文字をとって、本をその順に並べることが多いのですが、絵本の場合は「絵」の人の名字からとります。

名前に金がついた品種その1「金星」。
甘くて果汁が多く、シャキシャキの食感が特徴

「のらいぬ」は幻想的な砂浜と海の絵が美しい作品なのですが、ストーリー的には途中で「なんでやねん!」とツッコミたくなる展開をします。絵本ってそういうちょっとネジのはずれたようなところが面白いですよね。子どもに寄り添った、常識にとらわれない自由な発想とでも言うのでしょうか。「のらいぬ」があまりにすばらしかったので、帰宅後谷内さんについていろいろ調べたり、他の作品を読んでみたりしました。

谷内さんはブラチスラヴァ世界絵本原画展で「金のりんご」という賞を2度受賞しています。きたっ、リンゴのネタ。最初は上でご紹介した「のらいぬ」(1973年)で、2度目は「つきとあそぼう」(作・内藤初穂、1979年)。この原画展は2年ごとに開催される世界的なビエンナーレで、記念すべき第1回(1967年)のグランプリはなんと日本人の瀬川康男さんが作画を担当した「ふしぎなたけのこ」(作・松野正子)です。

名前に金がついた品種その2「ジョナゴールド」。
やや酸味が強く、さっぱりとした美味しさが特徴

金のりんご賞はこのグランプリに次ぐ5作品に対して与えられる「銀メダル」的な賞です。なぜ「準グランプリ」ではなく金のりんごという名前になっているのかはよくわかりませんが、おそらくアルビーン・ブルノフスキーの同名絵本から採られているのではないかと思われます。と言うのも、ブルノフスキーさんはブラチスラヴァを首都とするスロヴァキア共和国を代表する絵本作家だからです。ストーリーも東欧に伝わる民話をもとにしたもの。

スロヴァキアはかつてのチェコスロヴァキアから独立した小国で、僕は音楽関係者やミュージシャンたちと一緒にレーベル主催のジャズフェスの開催地を渡り歩くというツアーで一度行ったことがあります。開催地はスロヴァキアとすぐ北のポーランドに分かれていたので、僕が訪問したのはブラチスラヴァに次ぐ第2の都市コシツェだけだったのですが、落ち着いたのんびりムードで郊外っぽい雰囲気の街でした。友達がブラチスラヴァに行ったことがあるそうなのですが、そちらも似たような感じの街だったそうです。

雨上がりのコシツェ

僕はポーランドの音楽を専門とする音楽ライターでもありますが、この国のミュージシャンはチェコやスロヴァキア、またはウクライナなど国境を接した隣国シーンとのコラボも多く、そのせいなのかどうかスロヴァキア側で制作した作品にも頻繁にポーランド人ミュージシャンが登場します。僕がかつて取材させてもらった上記フェスを企画したスロヴァキアのレーベルHevhetia(ヘフヘチアと読みます)もその例の一つで、だからポーランド側にも演奏場所を設けたというわけなんですね。

上記ツアーで聴いたクレズマー音楽のミニ・コンサート

ということで今回最後にご紹介する音楽は、のらいぬ→金のりんご→スロヴァキアという連想リレーからの、Hevhetiaレーベルの作品にしましょう。いつも通り、リンゴと音楽は何の関係もありません(笑)。このレーベルはポーランド人やチェコ人がリーダーのアルバムを作ることがほんとに多くて、逆にスロヴァキア人作品を見つけるのが難しいくらいなのですが、スロヴァキアの人のもいいのがあります。

このアルバムなんてどうでしょう。コシツェ出身のドラマー、マレク・サルヴァーシュが昨年発表したセカンド。ハンガリーのハルチャ・ヴェロニカやウクライナのスサンナ・ヤラなど女性ヴォーカリストをゲストに迎え、ジャズやトラッドをコンテンポラリーなサウンドの中でミックスした作品です。ハルチャさんは僕も何度か会ったことがありますがものすごくいい人で、彼女を知っている人もみんなそう言ってます。が、ヴォーカリストとしてはすさまじく多才で先鋭的な天才です。天は何物も与えますよねえ。

マレク・サルヴァーシュの2ndアルバム「Light Outside」

2023/7/28

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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