vol.51 わたし、改名しました
歴史的瞬間とはまさにこのことを言うのでしょう。その昔、テレビを見ていてお笑いコンビが改名「させられる」ところを目の当たりにしたのです。そのコンビとは「くりぃむしちゅー」さん。お二人については何の説明も要らないと思うのですが、実はこのコンビ名は改名後のもの。元は「海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)」でした。
僕の記憶が正しければ、ウッチャンナンチャンかとんねるずの番組でバレーかビーチバレーのようなものをやって、負ければ改名という罰ゲームがあったんですね。くりぃむしちゅーの二人は、それに負けてしまったんです。負けた後、二人は「なんだよ、くりぃむしちゅーって!」と愕然としていましたが、結果的には前のコンビ名より優しく親しみ深かったわけで、その後売れっ子になって、万々歳でしたね。以上、あくまで記憶なので実際は少々違ったかもしれませんが。
ちょっとゴシップネタみたいになってしまいますが、改名をめぐるトピックにはネガティヴなものもありますよね。近年の代表例としては元・能年玲奈さんが「のん」さんになってしまった経緯とか。所属事務所のほうが圧をかけてきたんだかなんだか、とにかくもめたんですよね。その頃ののんさんと言えば何と言っても「あまちゃんの能年玲奈」だったわけで、これからもっとのぼっていこうという若手が芸名を奪われるのはしんどい出来事だったでしょう。他には、加勢大周と二代目加勢大周問題とかもありました。
個人的にいつも「わからん」と思っているのが歌舞伎俳優の〇代目襲名というやつですね。市川海老蔵さんも気がつけば十三代目市川團十郎さんになっています。僕の世代(アラフィフ)が知っていた中村橋之助さんも中村芝翫の名を襲名し、今の橋之助さんは若いイケメンや! ややこしいことこの上ないのですが、きっと歌舞伎の世界ではこの「襲名」という名の改名はとても名誉なことなのでしょう。歌舞伎俳優はドラマや映画の世界でもおなじみなので、余計ややこしいですよね。歌舞伎とは違いますが、アイドルユニットりんご娘さんも最近メンバー全とっかえしましたがりんご娘のままなので、ある種の襲名と言っていいのかも。
役者さんでは、名前の一部だけ変えるというパターンもよくありますよね。例えば西村まさ彦さんとか。前は西村雅彦さんですよね。あとは、亡くなった阿藤快さん。以前は阿藤海さんでした。俳優の一部改名は、姓名判断とか占いとかが理由のことが多い気がするのですが、よっぽどそういう業界とつながりが深いのかなあとちょっと思ったり。ちなみに「元芸名」でいちばん強烈なのが生瀬勝久さんの「槍魔栗三助(やりまくりさんすけ)」でしょうか(笑)
個人的には「改名しません」ネタのほうも気になりますね。最近、ということでもないのですが、ポーランドのジャズの世界でこんなことがありました。超美音と一音一音の緊張感、シビアなインプロヴィゼーションが魅力のRGGというトリオがいます。今も活躍中のトリオですが、実は一度、2013年頃にメンバーチェンジがありました。ゼロ年代から活躍していたトリオなのでそれなりに歴史があり、メンバー交代そのものはそんなに珍しくもないのですが、意外だったのはチェンジしたのがピアニストだったことと、トリオ名を変えなかったことです。
メンバーチェンジ前のRGG最後の作品「ONE」。傑作です
ピアノトリオにとってピアニストというのはやっぱり「顔」のようなもので、ロックやポップ・グループのメインヴォーカルが全然違う声質の人にチェンジしたらやっぱり凄く違和感があるでしょう。それと同じくらい大胆な交代なんですよ。個人的には、ピアノトリオはピアノが主役ではなくて、ピアノ、ベース、ドラムの3人がフラットな役割で作っていくものなんだというRGGの美学、心意気を感じました。
問題は改名のほうです。改名しないんだ、と驚いたのは、このトリオ名がメンバー3人のファミリーネームの頭文字から採ったものだったからです。前のピアニストがRaminiakさんで、新ピアニストがOjdanaさんだからOGGになるはずが、こちらは変えなかったんですね。ちなみに個人的にはピアニスト交代後の音楽も前もどちらも好きで聴いています。
音楽がらみの改名ネタで有名、というかけっこう知られているのがアンドレカンドレさんが井上陽水になったことでしょうか。もとはそういうミュージシャン名だったようです。今ではNHKのブラタモリの主題歌&エンディングとかもう国民的アーティストの一人ですなあ。陽水のレコードは両親がたくさん持っていて、少年の頃よく聴きました。
中でもNHKホールでのライヴを収録した「クラムチャウダー」が大好きで、ボッサ風味の「ワインレッドの心」とか、忌野清志郎との共作「帰れない二人」とか、ちょっとジャズっぽさもある演奏も曲目も最高なのです。ギター&編曲で参加した故・大村憲司はアレンジャーとしてもギタリストとしても日本を代表する天才で、先日亡くなった高橋幸宏さんらのYMOのサポート・ギタリストとしても名を馳せました。
大村憲司が参加したYMOの異色作「増殖」
いつになったらリンゴの話になるねん! はい、今からです。こうして改名ネタを見てきてやはり気になるのは改名したリンゴってあるのだろうか?ということですよね。調べてみたらいくつかありました。例えば「紅月(こうげつ)」。もともとは和香だったらしいのですが、1981年に改名しています。すごく甘い品種だそうですが、食べたことあったかなあ。あとは「会津のほっぺ」。こちらは2016年に会津あかねから改名。信州三兄弟と呼ばれている品種の一つ「秋映(あきばえ)」も「高秋」から改名されています。ちなみに三兄弟の残り2つはシナノゴールドとシナノスイート。
ざっと一部だけ挙げてみましたが、改名したりんご、けっこうありますね。果物の名前は食べる前になんとなく味や触感をイメージさせるものが多い気がするので、やっぱりこれからの勝負をかけた改名なんだと思います。イメージ、大事ですよね。
2023/2/28