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音楽ライター・オラシオの
「りんごと音楽」
~ りんごにまつわるエトセトラ ~

vol.50 北限の〇〇

注:しばらく図書館の話が続きますが、必ずリンゴの話は出てくるのでご安心ください

北海道の北東部、紋別郡に位置する遠軽町に生田原図書館という公共図書館があります。ここは全国でも珍しい「駅舎一体型図書館」で、JR石北本線生田原駅に併設されています。鉄道駅と併設か、または駅から信号を渡らずに行ける図書館のことを僕は「時図書館」と分類していますが、生田原のような併設型は非常にレアなので、さらに区別して「駅図書館プレミアム」と呼んでいます。遠軽町にはここの他にもう一館「駅図書館プレミアム」があります。JR石北本線丸瀬布駅の丸瀬布図書室です。

昨年の夏に、網走から鉄道やバスを乗り継いで稚内まで行くという旅をしました。網走市、北見市、遠軽町、湧別町、紋別市、興部町、雄武町、枝幸町、浜頓別町、猿払村、稚内市という順に、時折内陸部に入りながらも、基本的にはオホーツク海沿岸部にある自治体を北上していく旅でした。どうです、楽しそうでしょう。遠軽町は旅の最初のほうに訪れました。

オホーツク沿岸バス旅。紋別市から興部町に向かう途中で撮影

生田原の市街地には、駅から徒歩数分のところにホテル「ノースキング」も併設した生田原温泉があります。ここ数年、僕は旅のついでに図書館を訪ねる「図書館ウォーカー」を名乗ってその体験を陸奥新報にも連載していますが、最近のマイブームが「温泉や公衆浴場で入浴してから近くの図書館を訪ねる」というもの。近くに入浴施設がある図書館を探して行くようにしてます。生田原でも温泉に入ってから図書館に行くことにしました。

北海道の鉄道は中核都市近辺をのぞけば運行ダイヤがスカスカです。生田原でも一度降りると次の電車まで3時間近くあり、駅前の街をぶらぶらしてから温泉でゆっくり汗を流してもさらに1時間近く余ります。ここはじっくり腰を落ち着けて図書館で読書しかないでしょう。無料で入館、休憩できて本も読める。これが公共図書館の良いところです。

図書館併設の生田原駅。2階にはオホーツク文学館(有料)もあり

僕は旅先の図書館で読書する時、そこでしか読めないような本とかご当地情報をゲットできるような本を探すようにしています。この時手に取ったのは、遠軽町を含むオホーツク沿岸部の街の昔の写真を集めた本でした。これまで立ち寄ってきた街やこれから行く街のかつての姿を眺めていると、ある写真のキャプションに目が留まりました。かつては湧別町でもリンゴが作られ「北限のリンゴ」として知られていたのだと書いてあります。

湧別町は、中心部まで遠軽町からバスで北上し小一時間という位置にあり、サロマ湖西岸やオホーツク海に面した自治体です。緯度としては旭川よりもさらに北、名寄市の少し南くらいにあたります。キャプションを読んで、こんなに北にある街でもリンゴが育てられていたんだ!とびっくりしました。このことを知っただけでも、生田原図書館に長居した価値がありました。

ところで湧別町にも面白い図書館があります。中湧別図書館です。まるで宮殿のような壮大な建築「文化センターTOM」内にあり、漫画家の原画などを展示した漫画図書館やバスターミナルが併設。すぐ近くには廃線前の姿のまま保存された旧中湧別駅跡や道の駅、そしてまたまた温泉の「チューリップの湯」などがあり、町の観光スポットにもなっています。湧別のリンゴ産業はやがてすたれてしまったようです。生田原から鉄道とバスを乗り継ぎ湧別町を訪ねてみましたが、かつてのリンゴ栽培の名残はまったく見られませんでした。

中湧別図書館がある文化センターTOM。なんじゃこりゃ~

現在では、ある程度の規模でビジネスとして成立しているリンゴ栽培の北限は北海道の余市町あたりのようですが、北見市でオホーツク地域のリンゴ産業を復活させようと頑張っている方もいらっしゃるようです。ちなみに余市のリンゴは生食ではなくスイーツやドリンクの材料としての価値に重点をおいて差別化をはかっているみたいですね。僕も北海道のホテルの朝食で何度か余市産リンゴを使ったジュースを飲みました。

北見市でのリンゴ産業復活を見込んで栽培されている希少品種「旭」

さて、音楽のトピックで「北限」という切り口は可能なのでしょうか? というのも、音楽は基本的にグローバルなもので、体や楽器があればどこでもできるからです。北にいても南にいても関係ないですよね。ちなみに「北限」「音楽」とかでググると、我らが青森県の誇り、吉幾三さんの「北限海峡」という曲が出てきます(笑)。作詞作曲も吉さんです。これが生物や植物の分布などではだいぶ様子が変わってきます。青森県にとって身近なのはブラキストン線。

吉幾三さんの北限海峡

本州北端の青森県と北海道の間を隔てる津軽海峡を境に動物分布が変わることをご存じですか。例えば熊。ツキノワグマは北海道には生息しておらず、逆にヒグマは本州以南にはいません。小説やマンガなどで、本州でヒグマが暴れているシーンを描いたら即、編集や校正から突っ込まれるわけです。このように津軽海峡の南北で住んでいる動物の種類がはっきりと分かれることから、提唱者の名をとってブラキストン線、または津軽海峡線とも呼ばれているのです。つまり、この線がツキノワグマなど本州以南にしかいない動物の北限ということになるわけですね。

では音楽の北限ネタ2つを挙げてみましょう。1つは、琉球音階と呼ばれるもの。二度と六度にあたる音(ドからはじめるとドレミファソラシドのレとラ)を抜いているためニロ抜き音階とも呼ばれています。キーボードやギターでレとラを抜いて適当に弾いてみるとわかると思うのですが、むちゃくちゃ「沖縄感」が出る音階です。ではなぜそういうふうに聞こえるのでしょう。それは、ある意味「地域限定」の音階だからです。実はこの琉球音階、鹿児島県奄美群島の沖永良部島が北限なのです。この島より北の地域の民謡などには使われていません。奄美の中で分かれるのが面白いですね。

もう1つは、北限の国とはどこなのか、そしてそこの音楽はどういうものかということでしょうか。最北の国については諸説あるかもですが、僕が選んだのは領土がいちばん北極に近いデンマーク領グリーンランド。世界最大の島としても知られています。そしてこの国(自治領なのでいちおう首都や公用語もあります)の音楽と言えば、何と言ってもロックバンド「ナヌーク」。デンマーク語ではなくグリーンランド語で歌っているところも心意気を感じますし、特にセカンドアルバムはグリーンランド国民の5人に1人は買ったという大ヒットを記録しました。「あえてローカル」のかっこよさを極限まで追求したバンドと言ってもいいでしょうね。

ナヌークのセカンド「Ai Ai」

というわけで、今回は新しい北限のリンゴになるかもしれない「旭」を推してさよなら、さよなら。希少品種らしいので見つけたら即買いですね。

2023/1/20

Profile

オラシオ

ポーランドジャズをこよなく愛する大阪出身の音楽ライター。現在は青森市在住。

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