第9回 日本のリンゴ育種
青森県産リンゴの品種別割合は表に見るように、40年前に比べると大きく変化している。
1976年産では米国で育成された品種が66%を占めていたが、2016年には10%を切っている。「国光」、「紅玉」などの米国から導入された品種より食味が格段にすぐれた品種を育成した、日本のリンゴ育種の輝かしい成果である。
青森県りんご協会発行の「りんご指導要項(平成30年度改訂版)」には、主要品種及び新品種37品種について、その組み合わせ、育成表、命名・登録年、収穫時期、果実の特性を表にまとめて掲載されている。
青森県産リンゴの品種割合
品種別割合(%) | |||
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1976年 | 1992年 | 2016年 | |
米国育成品種 | |||
デリシャス系 1) | 44.5 | ― | ― |
国光 | 15.3 | 3.4 | ― |
紅玉 | 3.4 | 0.9 | ― |
ゴールデンデリシャス | 1.7 | ― | ― |
祝・旭 2) | 0.8 | ― | ― |
ジョナゴールド | ― | 7.9 | 9.9 |
小計 | 65.7 | 12.2 | 9.9 |
品種別割合(%) | |||
---|---|---|---|
1976年 | 1992年 | 2016年 | |
日本育成品種 | |||
ふじ | 22.9 | 53.2 | 50.2 |
陸奥 | 4.7 | 5.3 | ― |
印度 | 2.3 | ― | ― |
つがる | ― | 9.1 | 10.3 |
王林 | ― | 8.7 | 10.0 |
北斗 | ― | 4.0 | ― |
千秋 | ― | 1.4 | ― |
その他 | 4.4 | 6.1 | 19.6 |
小計 | 34.3 | 87.8 | 90.1 |
資料:農林水産統計
注:1)デリシャス系はスターキングデリシャスを主体とするデリシャスの着色系品種
2)旭はカナダ育成
1. 国内育成品種
日本で初めて交雑によるリンゴ育種を行ったのは北津軽郡梅沢村(現・五所川原市)の前田顕三である。当時、猛威をふるっていたリンゴワタムシの抵抗性品種を育成し、1926年に命名登録した。しかし、果実品質が劣り、寄生蜂のワタムシヤドリコバチが導入されたことにより被害が軽減されたため普及しなかった。
一方、前田は20数年かけて果皮・果実の赤いリンゴを育成している。五所川原市はその系統を選抜して「御所川原」として1996年に品種登録した。同市の名所「赤~いりんご並木」はこの品種である。
公的研究機関での本格的なリンゴ育種は青森県農事試験場園芸部(りんご試験場の前身)が1928年から、藤崎町にあった農林省東北農業試験場園芸部(果樹試験場森岡支場、農学・食品産業技術総合研究機構果樹研究所の前身)が1939年より開始された。両研究機関が第1世代品種を育成した。
現在では、リンゴ生産道・県で、リンゴ育種を実施している。弘前大学、岩手大学、信州大学でもリンゴの遺伝的研究、新品種の育成を行っている。また、民間の育種家による新品種の育成も盛んである。
これまで国内で育成された品種の母木をみると、米国からの導入品種「ゴールデンデリシャス(以下GDと表記)」、「国光」、「紅玉」、「デリシャス」、明治初年弘前市で生まれた国内育成第1号品種「印度」の5品種に集約される。
〇 第1世代品種
「陸奥(GD×印度)」、「つがる(GD×紅玉)」、「東光(GD×印度)」は青森県りんご試験場で育成され、「ふじ(国光×デリシャス)」は東北農試園芸部で育成された。
民間では、福島県の大槻只之助が「王林(GD×印度)」を、青森県の佐藤肇が「金星(GD×デリシャス)」を育成した。
これらの品種は1949年から1975年までに命名・登録された。
なお、「ジョナゴールド(GD×紅玉)」は米国ニューヨーク州農事試験場で育成され日本に1970年に導入された。
〇 第2世代品種
「ふじ」、「つがる」、「王林」を交雑親とする第2世代品種には「シナノスイート(ふじ×つがる)」、「千秋(東光×ふじ)」、「北斗(ふじ×不明)」、「ぐんま名月(GDの自然交雑実生×ふじ)」、「トキ(王林×ふじ)」、「きおう(王林×つがる)」などがある。
〇 第3世代品種
第3世代品種には「シナノゴールド(GD×千秋)」、「未希ライフ(千秋×つがる)」などがある。「ふじ」の子である「千秋」とGD系品種の組み合わせで多くの品種が出ている。
2. すぐれた育種母本「ゴールデンデリシャス」
「ゴールデンデリシャス」は米国ウエストバージニア州の果樹園で偶然実生として1841年に発見された。1916年頃よりスターク兄弟種苗会社より売り出された。
青森県農事試験場園芸部はこの品種が早なりで生産力が高く、しかも食味の良いことに注目し、1923年にニューヨーク州農事試験場より穂木を取り寄せた。5年後に始まるリンゴ育種の母本となった。「ゴールデンデリシャス」がなければ、どうなっただろうか。先人の先見の明に感謝したい。
青森県での「ゴールデンデリシャス」は果面にサビが多く発生し、袋掛けを2度も行ったため、まずいものが出荷され消費者の不評をかった。1970年代の後半から次第に減産し、1991年に農林統計から消えた。
世界のリンゴ生産量(中国を除く)に占める「ゴールデンデリシャス」の割合は16.8%(2015年)でトップである。
海外で人気のある新品種「ガラ」、「ピンクレディ」の片親は「ゴールデンデリシャス」で、「ジャズ」、「エンヴィ」にも「ゴールデンデリシャス」の血が入っている。
(2018/10/11)