第23回 リンゴの施肥
リンゴの樹体栄養と果実の発育・成熟は永年性、深耕性などの固有な性質の他に、土壌、気象、栽培条件などに強く影響される。また、着果結実と果実品質の間には相反する関係があり、これを施肥によりいかに調整するかが重要な課題である。
1.必要肥料成分
リンゴが正常に生育するには十数種類の無機養分が必要であり、それらはもともと土壌の中にかなり含まれている。しかし、窒素(N)・リン(P)・カリウム(K)・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)などの、毎年かなり多量に吸収される養分は肥料として補給する必要がある。CaとMgは養分としてよりも、土壌の酸性を改良する目的で施用するのが普通である。
したがって、毎年肥料として施用するのは、窒素・リン酸・カリの三要素である。養分名としては窒素・リン・カリであるが、肥料要素としては窒素(N)・リン酸(P2O5)・カリ(K2O)と表現する。また、カルシウム・マグネシウムを石灰・苦土ということもある。
2.三要素試験
青森県りんご試験場では「国光(試験開始時、樹齢30年)」を対象として、1931年から1963年まで三要素施用、無肥料、無窒素、無リン酸、無カリの5処理とする三要素試験を実施した。戦争の影響もあり試験の維持は困難をきわめ、試験の方針にも2、3の小変更がみられた他、試験規模、試験方法などさまざまな点で、永年性のりんごを対象とした肥料試験としては不備な面が多かった。
しかし、リンゴ樹においてこれほど長期にわたった肥料試験は国内ばかりか、海外においても少なく、リンゴの施肥を考える場合に参考になることが多い。
三要素試験の結果を総合すると、樹体の成長、収量および果実品質に対する影響は窒素が一番大きく、リン酸、カリの影響は意外に小さいことが明らかになった(表1)。
(表1)三要素と収量(青森県りんご試験場)
処 理 | 収 量(kg/樹) | ||||
---|---|---|---|---|---|
昭和6~15 | 16~21 | 22~30 | 31~38 | 6~38 | |
三要素 | 73.5 | 55.0 | 104.0 | 171.8 | 103.1 |
無肥料 | 61.3 | 38.7 | 77.8 | 108.4 | 76.7 |
無窒素 | 63.7 | 35.5 | 75.5 | 155.0 | 85.7 |
無リン酸 | 73.2 | 43.6 | 92.0 | 159.0 | 95.2 |
無カリ | 77.9 | 40.8 | 114.7 | 179.2 | 108.6 |
有意差* | 12.2 | 8.1 | 11.6 | 26.1 | 14.3 |
注)*5%水準
3.三要素の欠乏および過剰症状
リンゴ園にはかなり多量の肥料が毎年施用されているので、実際に三要素の欠乏が問題になることはほとんどないが、三要素の過不足のリンゴ樹・果実の様相をまとめたのが表2である。
(表2)三要素の過不足の症状
要素 | 欠乏状態 | 過剰状態 |
---|---|---|
窒素 | ・葉は小さく、淡黄色になって赤味を帯びる。 ・葉柄基部が赤く、葉は立ってくる。 ・秋の黄葉、落葉はかなり早い。 ・新梢の伸長が低下し、樹全体が小さくなる。 ・果実は小さくなり、着色はよくなる。 ・花芽の形成が阻害される。 ・花が咲いても結実しない。 |
・葉は大きく、濃緑色で、過繁茂となる。 ・花芽の着生は少なく、収量も低下する。 ・果実は大きくなり、着色は劣る。 ・食味が低下する。 ・ビターピットが多発する。 ・貯蔵力が低下する。 |
リン酸 | ・葉は小さく、立ち気味で、赤銅色になる。 ・早期落葉する。新梢は細く、発根はいちじるしく低下する。 ・枝の表面や、葉柄は紅色を帯びる。 ・果実は小さく着色は濃い。 |
・実例がなく不明。 |
カリ | ・葉は細く小さく、葉脈間に不明瞭なクロローシスが現れる。 ・しだいに葉縁がやけてくる。 ・新梢では基部葉から頂部葉へと症状が進行する。 ・枝の生長は低下し果実は小さくなる。 ・年による収量の変動が大きくなる。 |
・直接的な過剰は実例がない。 ・樹体または土壌中のカリがいちじるしく高まると、苦土欠乏、ビターピットの発生を増加させる。 |
4.施肥量の決め方
施肥量を理論的に算出するには、一般に次式が用いられる。
しかし、吸収量、天然供給量、吸収率はリンゴ園が立地する土壌、気象、栽培条件によって変動する。この三つの項目とも不確定要素が多く、あくまでも一つの試算にすぎない。
〇標準施肥量
実際的な施肥量を決定するには、いろいろな条件で圃場試験を行って適量点を見出すのが最もよい方法である。しかし、リンゴ樹は永年性で、樹体も大きく、個体差も大きいことから試験には大面積を必要とするので、結論を得るまで時間と経費がかかるという困難性がある。
最も信頼すべき施肥量、すなわち標準施肥量は、長年にわたる生産者の施肥実態と試験研究機関で行われた施肥試験の結果から決めるのが妥当である。
青森県が推奨しているリンゴ園の土壌管理(地表面管理)は図1のとおりである。この体系の中での標準施肥量は表3のとおりで、三要素の施用比率は窒素3に対してリン酸1、カリ1程度とする。
(表3)標準施肥量
区 分 | 施肥量(kg/10a) | 備考 | |||
---|---|---|---|---|---|
普通台樹 | わい性台樹 | 窒素 | リン酸 | カリ | |
成木(11年生以上) | 成木(6年生以上) | 15 | 5 | 5 | 全園施用 |
6~10年生くらい | 4~5年生くらい | 10 | 3 | 3 | 1~5年生くらい | 1~3年生くらい | 5 | 2 | 2 |
標準施肥量は個々の園地の最適量ではない。地力の高い園地ではこの量では多すぎる場合が多い。個々の園地の適正な施肥量については標準施肥量を基準とし、樹勢や果実品質の変化を観察しながら徐々に適量を見出すようにする。
5.施肥時期
施肥時期は春とし、消雪後できるだけ早く、遅くとも4月20日頃までに行う。他県で実施の秋肥は避ける。本県のように積雪が多く寒冷な地帯での窒素の9月施用は4月施用に比べて極端に少ないことが明らかにされている。9月の窒素施用は果実着色の向上は期待できても小玉になったり、樹勢衰弱を招く危険性がある。
6.肥料の種類
化成肥料などの普通肥料の種類については、どの肥料を用いても使用法が適切であれば効果はほぼ同じである。ただ、土壌の酸性化を食い止めるため、硫安や塩化カリ等の生理的酸性肥料の使用を避ける。
最近、有機入りの複合肥料が使用される例が多いが、これらの肥料から土壌に入る有機物は量的に少ない。リンゴ園の有機物は草生栽培、堆肥施用に頼るべきである。
参考資料
1)一木茂(1984):施肥(津川力編.リンゴ栽培技術)133-157.養賢堂
2)りんご指導要項(2020)青森県りんご指導要項編集部会編.青森県りんご協会
(2021/4/20)