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第18回 リンゴの健康機能性

 西暦紀元前300年頃、ギリシャのアレキサンダー大王は食後に必ずリンゴを味わい健康維持の一助にしていたと伝えられている。

 英語圏には、「1日、1個のリンゴで医者いらず(An apple a day keeps the doctor away)」ということわざがあり、ヨーロッパでは少なくとも16世紀頃にはリンゴの摂取が健康によいことが知られていた。リンゴの栄養成分をみても、ほかの食品に比べて特徴的なものはみあたらない(表1)。リンゴは不思議な果物である。

(表1)りんご100g当たりに含まれる栄養成分

皮むき 皮つき
エネルギー(kcal) 57 61
一般
成分
水分(g) 84.1 83.1
タンパク質(g) 0.1 0.2
脂質(g) 0.2 0.3
炭水化物(g) 15.5 16.2
食物繊維(g) 1.4 1.9
無機質 カリウム(mg) 120 120
カルシウム(mg) 3 4
マグネシウム(mg) 3 5
ナトリウム 痕跡 痕跡
ビタミンC(mg) 4 6

資料:日本標準成分表2015年版

 リンゴの健康機能性に関する科学的な研究は比較的新しい。わが国においては、1950年代に弘前大学の佐々木直亮らは青森県、秋田県に住む18,029名を対象に高血圧と食生活についての疫学的調査を行い、青森県、特に弘前近郊のリンゴ生産地域住民の血圧は比較的低いことを明らかにした。これは世界的にみて先駆的な研究であった。

 1980年代に入ると、弘前大学医学部の武部和夫らはリンゴの食物繊維を用いた基礎的及びヒト介入試験で、リンゴの食物繊維が糖尿病や動脈硬化の改善作用のあることを報告した。

●リンゴのポリフェノール

 最近の研究では、栄養成分でないが健康機能をもつポリフェノールが注目されている。茶のカテキン、ダイズのイソフラボン、赤ワインのポリフェノールが有名であるが、リンゴにも少なからず含まれている。リンゴを切ってみると、果肉が茶色く変色するのもポリフェノールである。

 リンゴのポリフェノールに着目し、その健康機能性の研究を精力的に行っている農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)の庄司俊彦らは、リンゴのポリフェノールの中にはプロシアニジンが63.8%含まれることを明らかにした。

 プロシアニジンは、ポリフェノールの中でも比較的強い抗酸化作用をもっている。動物実験やヒト介入試験によって、抗アレルギー作用、抗腫瘍性、糖・脂質代謝調節機能、育毛作用、動脈硬化予防、抗老化作用など様々な生体調節機能が報告されている(図1)。

(図1)リンゴ由来プロシアニジンの主な生体調節機能

出典:庄司俊彦「リンゴ由来プロシアニジン類の機能評価と機能性表示食品の開発」
『化学と生物』Vol.55 No.9, p631(2017)

●「機能性表示食品」としてのリンゴ

 2015年4月から始まった「機能性表示食品」制度は、事業者の責任において食品の安全性や科学的根拠を消費者庁に届出し、食品の健康機能性を表示できるものである。この制度でもっとも注目すべき点は、農産物(生鮮食品)でも機能性を表示することが可能になったことである。果実ではすでに温州ミカンが「骨代謝の働きを助けることにより、骨の健康維持に役立つ」としてカロテノイドの一種であるβクリプトキサンチンを機能性成分と表示して販売している。

「機能性表示食品」の届出には、表示しようとする食品の安全性、食品中の機能性関与成分の分析法および成分量の担保、機能性の化学的根拠を示す必要がある。

 リンゴは世界中で長い食経験があり、安全な食品である。リンゴのポリフェノールについても安全性が確認されている。農研機構で一定のルールに基づいた文献調査で機能性を評価した結果、リンゴの主要ポリフェノールのプロシアニジンを摂取することで「内臓脂肪を低減する」機能性のあることが確認された。その結果、リンゴのプロシアニジンの1日必要摂取量は110mgで、1日300gのリンゴを摂取する必要であるとされた。

●JAつがる弘前のリンゴ「機能性表示食品」の取り組み

 JAつがる弘前はリンゴの高付加価値化と消費拡大をはかるため、2015年7月からリンゴに含まれるポリフェノールの一種であるプロシアニジンに着目して商品開発に取り組んだ。

 JAつがる弘前は管内で生産されたリンゴの大きさや品質ごとのプロシアニジン量のバラツキを農研機構・果樹茶業研究部門と連携して測定した結果28玉(10kg当たりの果数、1果では357g相当)の「有袋ふじ」の果皮や果芯を除く可食部300gを摂取すれば、プロシアニジン110mgを担保できることを明らかにした。小さいリンゴでも同じくらいのプロシアニジンを含むので、300gを食べると小さいリンゴでも十分である。

 このことから、JAつがる弘前は消費者庁に「機能性表示食品」として2018年1月15日に届出、同3月7日に生果リンゴとして初めて受理され、商品名を「プライムアップル!(ふじ)」として販売を開始した。同様に、「王林」についても同12月18日に届出を行い、2019年2月8日から「プライムアップル!(王林)」として販売している。

参考資料
1.「リンゴの機能性」の最新事情
・三浦富智(弘前大学大学院 保健研究科):リンゴの機能・効能
・庄司俊彦(農研機構食品研究部門 食品健康機能研究領域):リンゴ機能性表示食品の今後の展開
・廣田寛央(つがる弘前農業協同組合):機能性表示を活用したリンゴのブランド戦略「果実日本(日関連発行)2019.Vol.74,No.3
2.庄司俊彦:リンゴの健康機能性と機能性食品の開発 JIR NEWS 2019.November

(2020/6/6)

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プロフィール

一木 茂

元青森県りんご試験場長。現在はりんごについて広めるべく、筆を執る。

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