第24回 青森県産リンゴの周年供給を支えるCA貯蔵
青森県産リンゴの収穫量は2019年産が409,500トンで、全国の収穫量の58.4%を占めている。品種別収穫量は「ふじ」「王林」「つがる」「ジョナゴールド」が主体で、その中でも食味や貯蔵性に優れる「ふじ」が47.8%を占めている(表1)。
(表1)青森県産リンゴの品種別収穫量と割合(2019年産)
ふじ | 王林 | つがる | ジョナ ゴールド |
その他 | 合 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
生産量(t) | 195,800 | 41,600 | 41,100 | 34,100 | 97,200 | 409,800 |
割合(%) | 47.8 | 10.2 | 10.0 | 8.3 | 23.7 | 100 |
資料:農林水産統計
市場から遠隔地にある青森県産リンゴの販売は、従来から寒冷地産の貯蔵性を活かし、果物端境期の販売による利益追求であった。このため、冷蔵施設は早くから整備が進められ、貯蔵法は雪巻き冷蔵から電機冷蔵(機械冷蔵)、CA貯蔵へと発展してきた。
青森県内には多くのリンゴ貯蔵施設があり、収容能力は2019年10月時点で35万トンを超える。そのうち、長期貯蔵が可能なCA冷蔵庫の収容能力は15万トンとなっており、他県に見られない充実した貯蔵施設が整備されている(表2)。
(表2)青森県のリンゴ貯蔵施設の収容能力(t)
普通冷蔵庫 | CA冷蔵庫 | 簡易冷蔵庫 | 合 計 | |
---|---|---|---|---|
移出業者 | 79,499 | 105,109 | 560 | 185,168 |
農 協 | 76,235 | 49,059 | 480 | 125,774 |
出荷組合 | 11,785 | 3,734 | 1,042 | 16,561 |
倉庫業者 | 2,097 | 0 | 879 | 2,976 |
生産者 | 6,655 | 1,360 | 12,090 | 20,105 |
合 計 | 176,271 | 159,262 | 15,051 | 350,583 |
資料:青森県りんご果樹課調べ(2019年10月末現在)
有袋栽培のリンゴは無袋栽培のリンゴに比較して貯蔵障害が発生しにくいことから、「ふじ」「ジョナゴールド」の有袋果は主にCA冷蔵庫で貯蔵され、4月以降の後期販売に仕向けられる(図1)。
(図1)青森県産リンゴの周年供給体制
青森県産リンゴのブランド力は、豊富な生産量と栽培方法および貯蔵方法を組み合わせた計画出荷なる周年供給体制によって維持されている。
●CA貯蔵導入の経過
CA貯蔵とは、リンゴ貯蔵庫内の気体組成を人為的に調整(酸素を減らし、炭酸ガスの濃度を高める)し、さらに低温で貯蔵する方法である。CA貯蔵は1920年代に英国で開発され、1940年代に米国で商業化されたもので歴史は古い。
このような状態で貯蔵されたCAリンゴの特長としては、普通の低温貯蔵に比べ果肉がぼけずに硬いこと、酸の保持効果が大きく味ぼけをおこさないなどである。また、CAリンゴは出庫後の日持ちが非常によいという特長もある。
青森県にCA貯蔵施設が商業ベースで導入されたのは1961年である。1964~65年にかけて、東北各県と長野県に合計約800トン収容できるCA貯蔵庫が建設された。しかし、現場でのCA貯蔵に対する認識が不足していたため、施設上のトラブル、貯蔵障害果の発生などが相次いだ。さらに、「国光」「紅玉」主体の品種構成であったため、CA貯蔵の経済的効果が得られず各県とも数年と利用されずに終わってしまった。
1970年代に入ると、「国光」「紅玉」から「デリシャス系品種」「ふじ」「陸奥」などへと品種更新が行われた。これらの品種は、消費者の高級化志向に適合して高値で取り引きされ、生産規模も拡大したが、貯蔵性では「国光」「紅玉」に劣るため、CA貯蔵は後期販売を狙う青森県で見直されてきた。
1972年にCA自動制御装置(再循環方式)にされたのを契機に、その後大手の移出業者を中心に本格的なCA貯蔵庫が次々と建設された。CA貯蔵収容能力は1977年の1.7万トンから1993年には13万トンと8倍近くに増えた。また、CA貯蔵収容能力が伸びるにつれて、4月以降に県外へ出荷される割合が大きくなってきた。
●CA貯蔵発展に寄与した技術開発
CA貯蔵収容能力が飛躍的に増加した要因としては、ガス管理の自動制御化の開発など施設の性能向上による部分が大きい。しかし、青森県りんご試験場(現:青森県産業技術センター)で長年にわたって実施された収穫適期の把握、品種ごとの適正ガスの設定など、生産から貯蔵管理まで一連の管理体系の中で、販売時期に対応した技術開発があったからである。その結果、次のことを明らかにした。
- 品種ごとに収穫時の標準指標を決め、販売時期を想定した収穫時期を貯蔵方式別に決めた。
- 貯蔵障害を抑え、鮮度保持効果を高めるためのガス濃度を品種別に検討したところ、一般的には酸素は1.8~2.5%、炭酸ガスは1.5~2.5%の濃度で管理するとした。特に「ふじ」は炭酸ガス障害の発生しやすい品種であり、蜜の多く入った年には炭酸ガスを2.0%より低めにし、無袋果は1.5%程度にするとした。
●揺れる周年供給体制
青森県産「ふじ」の県外出荷量(2019年産)は144,034トンで、全出荷量に占める比率は58%である。その80.5%は無袋果である。有袋果は28,047トンで、その94%は4月~8月に出荷されており、CA貯蔵と相まって青森県産リンゴの周年供給を支えている。
「ふじ」はもともと有袋栽培が主体であったが、1990年代に入ると無袋栽培が普及し、1991年以降は有袋栽培実施面積率は50%程度で推移してきた。その後、生産者の労働力不足を背景として2010年から有袋栽培は急激に低下しはじめ、2020年には有袋栽培実施面積率は26%となっている。この傾向は後期販売の中心となる有袋CA「ふじ」の不足を招き、青森県産リンゴの強みである周年供給体制の維持を難しくしている。なお、「ジョナゴールド」の有袋栽培面積率は63%である。
近年、ニュージーランド産リンゴが2018年に3,428トン、2019年に4,661トン、2020年に7,248トンと輸入されている。ニュージーランドのリンゴ産業国際競争力は高く、アジアをターゲットにした輸出に積極的である。アジア向けに育成した「ジャズ」「エンビー」は日本国内でも評価が高く、後期販売用青森県産リンゴと競合することになるであろう。
参考資料
青森りんご流通対策要項2020:青森県農林水産部りんご果樹課(平成31年3月)
(2021/6/18)