第15回 リンゴ果実の生育中に発生する主な生理障害
リンゴの生理障害とは、病原菌や害虫の寄生以外の諸要因によって、幹・枝・葉・果実などの正常な生育が阻害される現象の総称である。最終的には果実の収量や品質に大きな悪影響を与える。
リンゴの生理障害の要因として、①養水分の過不足に起因する場合、②水分の吸収・蒸散の不均衡に起因する場合、③成長の部分的な不均衡に起因する場合、④器官組織の成熟の不均衡に起因する場合、⑤日光の直射に起因する場合、⑥低温障害による場合、⑦貯蔵中のガスによる場合などがあげられる。
ここでは、リンゴ果実の生育中に発生する主な生理障害の症状、発生要因、対策、感受性品種を表に示した。
(表)リンゴ果実の生育中に発生する主な生理障害
障害名 | ビターピット(苦疸病、クサレボシ) ※諸外国でも被害の程度に差があるものの、リンゴ栽培をしている所では必ず見られる。 ビターピットが文献に見られるのは1869年(ドイツ)であるが、おそらくリンゴ栽培が始まった時から存在していたと思われる。 |
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症 状 |
収穫直前果実の赤道面より下方(がくあ部)に、円形でややくぼんだ斑点がでる。斑点は赤色品種で暗赤色、黄色品種では暗緑色である。 健全部との境界は不明瞭、斑点直下の果肉は褐変し、コルク化する。 樹上では斑点が外部から見えないが、貯蔵中に発現するものもある。品種によっては、普通貯蔵庫で12月末頃に最高の発生率に達する。 貯蔵中に、被害部より腐敗菌が侵入し、腐敗を伴うので実害は一層多くなる。 |
発生要因 | 果実と葉・枝との間にカルシウムの競奪が起こり、果実中でカルシウムが不足した結果、発生する。 ▼発生しやすい条件 樹勢等:樹勢の強い樹(高接更新で強剪定した樹や若木など)、窒素施用量の過多 気 象:6~7月の少雨と8~9月の多雨、夏季の高温 |
対 策 | (1)栽培管理 ・樹勢の強い場合は、窒素施用量を減らし、樹勢を落ち着かせる。 ・強剪定、強摘果を行わない。 ・収穫が早すぎると発生が多くなるので、適期に収穫する。 (2)カルシウム剤の散布 ・ビターピットの発生しやすい園地では、カルシウム剤を直接果実に付着するよう散布する。 ・カルシウム剤は種類によって異なるが、6月上旬から9月上中旬まで、10~15日の間隔で3~5回単用で散布する。 |
感受性品種 | 王林、つがる、陸奥、北斗、ジョナゴールド |
障害名 | 縮果病 |
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症 状 | 幼果期(6月上~中旬) ・果実の赤道部からつゆ(分泌液)を出したり、果実内部に水浸状の斑点が発生する。このような果実は、内部にコルク化した組織が点在する。 ・外観が正常にもかかわらず、果実内にコルク化した組織が見られる場合もある。 6月下旬以降 ・果実の発育が進むにつれて、果皮が赤褐色または暗褐色に変化してサビ状になる。 ・果実内部は水浸状の斑点が消失してコルク化した組織だけが残る。コルク化した組織は発育が止まるので果実はゆがんで奇形となる(縮果症状)。 ・症状が激しい場合は、果皮に粗皮状の亀裂が生じ、亀裂が果心部まで及ぶこともある。 ・縮果病に似た症状に、ウイルスによる「ゆず果病」や「奇形果病」があるが、2つの場合、果実内部にコルク化した組織がない。 |
発生要因 | 土壌中のホウ素が流亡、または不溶化することにより、リンゴ樹が吸収できずに発生する。 ▼発生しやすい条件 土 壌:乾燥しやすい土壌(有効土層の浅い砂礫土壌や傾斜地の上部など) 気 象:幼果期に雨が少なく、高温で土壌の乾燥が続く年 |
対 策 | (1)栽培管理 土壌の乾燥しやすい園地では、敷わら、敷草、かん水などを行う。 (2)ホウ素肥料の葉面散布 症状が見られたら、直ちにソリボー(葉面散布用ホウ酸塩肥料)を1000倍で7~10日おきに2回散布する。 (3)ホウ素肥料の土壌施用 1回の施用で3年くらいの効果があるので、毎年施用する必要はない。 土壌の乾燥しやすい園地では縮果病の発生が見られなくても、毎年ホウ素入り複合肥料を施用する。 |
感受性品種 | つがる、王林、ふじ、ジョナゴールド |
障害名 | コルクスポット |
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症 状 | 8月頃から収穫期まで、果実全体にビターピットと類似した斑点が発生する。 斑点の形状はビターピットと共通するが、斑点の大きさはやや大きい。 セミやカメムシなどの虫害によってもコルクスポットと類似した症状を示すが、この場合、果実斑点中央に吸汁孔または果実内部に針を刺したような痕がある。 |
発生要因 | ビターピットと共通する部分が多い。 樹勢の強い樹や大玉の果実に発生しやすい。 |
対 策 | ・窒素施用量を減らし、樹勢を落ち着かせる。 ・強剪定や強摘果を行わず、大玉にならないようにする。 |
感受性品種 | 王林、金星、レッドゴールド |
障害名 | こうあ部裂果(つる割れ) |
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症 状 | まず内部裂果が発生し、後に外部裂果へと進行する。 ・内部裂果 こうあ部(つる元)の果肉に生じる微小な亀裂で、外観から判別しにくい。亀裂は後に拡大し、こうあ部のくぼみが浮き上がった状態となる。果実肥大盛期の8月中旬から9月中旬にかけて発生量が増加する。 ・外部裂果 内部裂果の亀裂が拡大し、表面化した裂果である。9月中旬から発生し始め、収穫期にかけて発生量が増加する。 収穫を遅らせるほど発生量は増加し、裂果の程度も大きくなる。 |
発生要因 | 果実肥大盛期において、果肉部と果皮部の細胞伸長にに不均衡が生じることにより、内部裂果が発生すると考えられている。 ▼発生しやすい条件 気 象:満開後71日~120日(7月下旬~9月中旬)の総降水量が多い年。開花が早い年。 土 壌:排水不良 栽培管理:強剪定や窒素施用量の過多など、樹勢が強く、果実肥大が旺盛になりやすい栽培管理。有袋栽培では、無袋栽培に比べ発生が少ない。 着果部位:樹冠内部の下り枝 |
対 策 | (1)栽培管理 ・樹勢を必要以上に強めない。 ・多発年には収穫作業を遅らせない。 ・例年発生の多いところでは、有袋栽培とする。 ・排水不良園では、暗きょ設置など排水対策を講ずる。 (2)ヒオモン水溶剤の散布 開花が早く、大玉になりやすい年の満開20~30日後に3,000倍で10a当たり300~600ℓを単用で散布する。 |
感受性品種 | ふじ、早生ふじ 注:ジョナゴールド、シナノゴールドでは内部裂果を伴わない外部裂果を発生する場合がある。 |
(2019/10/21)