第17回 「ジョナゴールド」果皮の「油あがり」
リンゴに何も塗らなくても表面が油ぎって手がベトつく現象を「油あがり」とか「ワックスが上がる」という。この現象は「つがる」、「ジョナゴールド」、「シナノゴールド」のように「ゴールデンデリシャス」の血が入っている品種に発生しやすい。
「油あがり」は収穫期が遅れ、よく熟れた果実ほど発生しやすい。また、貯蔵期間が長かったり、室温に長く放っておいても発生する。有袋の果実は無袋の果実より「油あがり」の発生が少ない傾向にある。
「油あがり」は塵あいの付着、手に触れた時のベトベト感、及び油状物質に対する不安感などにより消費者に嫌われることが多い。
青森県りんご試験場(現、青森県産業技術センターりんご研究所)は、1983年に場内の12年生「ジョナゴールド」(台木M26)を供試し、この品種の粘着性物質を明らかにするために未熟期から成熟期にかけて果実を収穫し、常温で液状の不飽和脂肪酸に着目して果皮の脂質の変化を調べ、次のようなことを明らかにした(発表資料は末尾に記載)。
①「ジョナゴールド」は収穫時期が遅くなると、果皮における脂質の種類及び量がともに増加した。
②最も遅い収穫時期であった10月27日(満開177日後)における主な脂質として17種類の脂肪族化合物が同定された。これらの脂質の中で、常温で液状の物質はオレイン酸とリノール酸が存在した。
③未熟果で未検出又は痕跡程度であるが、成熟果で増加した脂質はバルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びトリアコンタンであった。また、不飽和脂肪酸のうち、オレイン酸はリノール酸より遅れて果皮に出現した。
④果皮の油状性の発生消長と一致し、しかも常温で液状の脂質はリノール酸であった(第1図)。
⑤油状性が発現していない10月21日収穫の「ジョナゴールド」果皮に市販のリノール酸を塗布したところ、果皮のロウ質物が溶解され、自然発生の油状性とよく似た油状現象が現れた。
⑥以上の結果から、「ジョナゴールド」果皮に油状性を示す原因物質としてリノール酸とオレイン酸であると推察した。
食用に使われる油脂には、大別して植物性油脂と動物性油脂の2種類がある。植物性油脂に多く含まれる不飽和脂肪酸は、体の生理活性作用を担っており健康にもさまざまな効用をもたらしてくれる。不飽和脂肪酸には多くの種類があるが、その代表は栄養価の高いリノール酸とオレイン酸などである。
リンゴ表面のベトベトを農薬や人工的なワックスを塗っているのではないかの声もあるが、「油あがり」はリンゴ本来の生理現象であり食用上なんら問題のないものである。
最近、リンゴの各品種とも適期収穫が守られ、貯蔵技術も進歩していることから、「油あがり」のリンゴが店頭に出回ることは極端に少なくなっている。
(2020/3/26)