第19回 リンゴの接ぎ木と台木
1.接ぎ木
リンゴのような果樹は遺伝的に雑種性が高いので、種子で繁殖すると親と異なる形質の個体が出現する。
したがって、リンゴの栽培品種は種子繁殖されることはなく、栄養繁殖される。種子繁殖は品種改良のための交雑実生育成と、台木の育成に用いられる。
栄養繁殖は母樹の一部である枝、葉、根などを切り離し、その再生力を利用して新しい個体を育成し、繁殖させる方法である。リンゴの栄養繁殖法は、接ぎ木である。突然変異が起こらない限り、母樹と形質が同じ個体(クローン)を無限に増殖することができる。
生産量が世界一の品種「ふじ」も1本の母樹から栄養繁殖されたものである。
母樹から切り離した穂木(接ぎ穂)を台木に接着させ、独立した個体を得るのが接ぎ木である(図1)。
〇接ぎ木の由来 1)
接ぎ木がいつごろから始められたかについては、必ずしも明らかにされていない。
接ぎ木は自然条件の中で、偶然に近接した樹同士が癒合し、生育した自然接ぎ木からヒントを得たものであるとか、老木の分岐点にたまたま実生個体が生育し、癒合したことから、接ぎ木技術が発達したものではないかという推測もあるが、必ずしも確証はないようである。
接ぎ木に関する記載としては、紀元前300年代、植物学の祖とされるギリシャのテオフラトスが行った果樹の接ぎ木に関する生理的な観察がある。西欧では紀元前、すでに果樹園芸が発達していたことから、接ぎ木はかなり古くから行われていたものであろう。
中国の文献には、今から3000年以上前ぐらいの頃にカンキツ類の接ぎ木が行われていたことを証明する記載があるという。また、わが国の接ぎ木の始まりは、仏教伝来の時代に中国から伝えられたのではないかといわれている。
〇接ぎ木の種類
接ぎ木を行う場合、苗圃で台木を掘り上げずに、その場所で行う居接ぎと、台を掘り上げて別の場所で行う揚げ接ぎがある。リンゴ苗木の繁殖は揚げ接ぎである。一方、苗木の新植によらないで品種更新する方法として、早期結実を目的とする高接ぎがある。これはすでに定植されている接ぎ木樹に別の品種の穂木を接ぎ木することから二重接ぎともいう。古い品種の部分は台木と新しい品種の中間に位置することから中間台という。
2.台木の種類と特性
台木には地上部の生育を強くし、樹冠を拡大させる強勢台木と、逆に生育を抑制し、わい化させるわい性台木がある。また、この両者の間には連続的に樹勢を調節する半強勢台木、半わい性台木がある(図2)。
〇慣行栽培の台木
慣行栽培は、一般的に7.5×7.5mの正方形植えで、10a当たりの栽植本数は18本である。
台木は以前からリンゴ属のミツバカイドウ、マルバカイドウ、コバノズミ、エゾノコリンゴ、一部で実生が利用されていた。しかし、1965年以降に栽植された苗木のほとんどはマルバカイドウである。
マルバカイドウは挿し木が容易で、リンゴワタムシにも抵抗性がある。マルバカイドウ台樹の土壌適応性は高い。マルバカイドウは強勢台木ともいわれたが、実際栽培では樹高を抑えているので、半強勢台木グループに相当する。
〇わい化栽培の台木
青森県のわい化栽培面積は4,928haで、普及率は24.1%(2019年)である。
わい化栽培は台木の種類、園地の地力、品種などにより栽植距離が若干異なるが、列間4m、樹間2mで10a当たりの栽植本数125本の密植栽培が基本となっている。最近では列間3.5m以内、樹間0.8~1mで10a当たり300本以上の高密植栽培もある。
台木は英国で育成されたM26、M9が主体である。
M26は土壌適応性の幅が広い。M9に比べわい化効果はやや弱く、樹齢を重ねるにつれて樹が大きくなる。接ぎ木部にコブができる。
M9には、M9A、M9EMLA、M9ナガノ、M9T337などの系統がある。他の台木に比べ根の活動が早いため凍害に弱い。湿害にも弱い。
〇新しいわい性台木
わが国で育成されたわい性台木として、農研機構果樹茶業研究部で育成されたJM7、JM1、青森県りんご試験場で育成された青台3が注目されている。
米国では、ニューヨーク州のコーネル大学で育成されたわい性~半わい性を示すジェネバ系統(Gシリーズ)が普及しつつある。
しかし現在は、台木(リンゴ属植物)を火傷病の発生している国からの導入を禁止されているため、わが国での利用は難しい。
参考文献
1)町田英夫(1978)接ぎ木のすべて
誠文堂新光社:33-35
(2020/7/22)