第26回 青森県におけるリンゴ黄色系品種
青森県における2015年から2019年までのリンゴ品種別面積割合を表1に示した。
青森県産リンゴの生産量及び販売量の基幹品種である5品種の栽培面積の推移をみると、「つがる」、「早生ふじ」、「ジョナゴールド」、「王林」では大きな変化はないが、「ふじ」は漸減傾向にある。
(表1)青森県の品種別栽培面積割合
区 分 | 栽培面積割合(%) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | ||
極早生・ 早生品種 |
つがる | 11.6 | 11.6 | 11.6 | 11.6 | 11.5 |
きおう | 1.0 | 1.0 | 1.0 | 1.0 | 1.0 | |
その他(恋空、紅はつみなど) | 0.9 | 0.9 | 0.9 | 0.9 | 0.9 | |
計 ① | 13.5 | 13.5 | 13.5 | 13.4 | 13.4 | |
中生品種 | ジョナゴールド | 9.8 | 9.7 | 9.6 | 9.6 | 9.5 |
早生ふじ | 3.5 | 3.5 | 3.4 | 3.5 | 3.4 | |
トキ | 1.6 | 1.6 | 1.6 | 1.7 | 1.7 | |
その他 (紅玉・シナノスイート・世界一・千雪など) |
8.9 | 9.0 | 9.0 | 9.1 | 9.6 | |
計 ② | 23.9 | 23.8 | 23.7 | 23.9 | 24.2 | |
晩生品種 | ふじ | 49.2 | 48.8 | 48.6 | 48.4 | 47.7 |
王林 | 10.7 | 10.6 | 10.6 | 10.6 | 10.5 | |
シナノゴールド | 1.5 | 1.7 | 1.9 | 2.0 | 2.0 | |
その他 (金星・ぐんま名月・星の金貨・春明21など) |
1.2 | 1.6 | 1.7 | 1.7 | 2.2 | |
計 ③ | 62.6 | 62.7 | 62.8 | 62.7 | 62.4 | |
合計(①+②+③) | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
※端数処理のため内訳の計が一致しない場合がある
資料:農林水産省特産果樹生産動態等調査
注:下線は黄色系品種
一方、黄色系品種の「トキ」、「シナノゴールド」の栽培面積は増加している。その他の品種として10品種あげられているが、「金星」、「ぐんま名月」、「星の金貨」は黄色系品種である。
なお、農林水産省特定果樹生産動態等調査によると、2018年に青森県で1ha以上栽培されているリンゴ品種(登録・未登録を含む)は60品種あり、その12品種は黄色系品種である。
●黄色系品種の人気
青森県で、国の果樹経営支援事業を活用して、過去5年間(2015~2019年)に優良品目・品種への改植・新植を実施した面積は344.4haであった。赤色系品種は全体の53%、黄色系品種は38.4%、その他は8.6%を占めている(表2)。
赤色系品種では「ふじ」の割合が全体の34.7%を占めているが、「シナノゴールド」は全体の11.8%を占め、黄色系品種の中では一番の人気である。
(表2)果樹経営支援対策事業による新改植(2015~2019年)
区 分 | 栽培面積(ha) | 割合(%) | |
---|---|---|---|
赤色系品種 | ふじ | 119.5 | 34.7 |
つがる | 30.8 | 8.9 | |
シナノスイート | 23.0 | 6.7 | |
早生ふじ | 9.4 | 2.7 | |
計 ① | 182.7 | 53.0 | |
黄色系品種 | シナノゴールド | 40.6 | 11.8 |
ぐんま名月 | 28.8 | 8.4 | |
トキ | 25.1 | 7.3 | |
王林 | 20.3 | 5.9 | |
きおう | 17.3 | 5.0 | |
計 ② | 132.1 | 38.4 | |
その他 | 計 ③ | 29.6 | 8.6 |
合計(①+②+③) | 344.4 | 100 |
資料:(公社)青森県青果物価格安定基金協会
黄色系品種は、全栽培作業時間の約20%を占める着色管理(果実に日陰をつくる葉を手で摘み取る作業)が省力化できることが最大の魅力である。しかし、黄色系品種といえども支柱を入れたり、小枝をひもで吊るし上げたりして樹冠の内部に十分光を入れて黄金色にする必要がある。
黄色系品種の収穫期判断は赤色系品種より難しく、未熟果や品質のバラツキがあると、消費者の不評を買い、品種の寿命を自ら縮めることになる。
●黄色系品種のルーツは「ゴールデンデリシャス」
現在、日本で栽培されているリンゴ品種の大部分は、明治から大正時代に海外から導入された「国光」、「紅玉」、「デリシャス」、「ゴールデンデリシャス(以下GD)」、津軽原産ともいえる「印度」が元となり、それらの間の交雑育種から生まれた後代が主力品種になっている。「つがる(GD×紅玉)」、「ふじ(国光×デリシャス)」、「王林(GD×印度)」がその例である。ただし、「ジョナゴールド(GD×紅玉)」は、1970年に米国ニューヨーク州農業試験場から導入された品種である。
その他「世界一(デリシャス×GD)」、「陸奥(GD×印度)」、「金星(GD×デリシャス)」がある。
これらの品種は、日本のリンゴ育種の第一世代と呼ばれている。第一世代の「ふじ」、GD系品種である「つがる」、「王林」を親とする第二、第三世代の多くの品種が誕生している。
最近青森県で栽培面積が増えている「シナノスイート」、「シナノゴールド」、「ぐんま名月」、「トキ」、「きおう」もGD系品種である。例として「シナノゴールド」の系譜を図1に示した。
表1で下線を記した黄色系品種はすべてGD系品種であるが、赤色系品種の「つがる」、「恋空」、「紅はつみ」、「シナノスイート」、「世界一」、「千雪」、「春明21」もGD系品種である。
GD系品種の組合せでできた世界的な品種として「ガラ」、「クリップスピンク(ピンクレディ)」、「ジャズ」、「ソニア」、「エンビィ」らがある。
●「ゴールデンデリシャス(GD)」とは
GDは米国ウエストバージニア州クレイ郡の果樹園で発見された偶発実生で、1916年頃にスターク兄妹苗木会社から売り出された。
わが国には1923年、青森県農事試験場園芸部(りんご試験場・りんご研究所の前身)が米国ニューヨーク州農業試験場より接ぎ穂で導入された。日本の市場には1928年頃から高級品として出回るようになった。
GDは結果年齢に達するのが早く、隔年結果性は少ない。生理的及び収穫前落果も少ない。完熟すると独特の芳香があり、食味は極めてよく果皮の全面が黄金色になる。
GDは様々な環境条件に適合するため、世界中で広く栽培されている。今でもその生産量は世界第3位である。
青森県でGDが「園芸作物統計」に出るのは1967年からで、収穫量のピークは1969年の14,200トンであったが、その後次第に減産の傾向をたどり1990年には統計から消えた。
その要因として、青森県の生産者がGDの果面サビ防止のため小袋かけ、大袋かけの二度かけをしたことにより「グリーンゴールデン」、「ホワイトゴールデン」などを作り、まずいものを出荷したため消費者の不評を買ったことが上げられる。
青森県においてGDは主力品種にはならなかったが、後代に優秀なリンゴを誕生させる優れた遺伝資源となっている。りんご研究所で育成された最近の品種は、すべてGDの後代である。
参考資料
りんご生産指導要項(令和2年度改訂版)青森県りんご生産指導要項編集部会編.(公財)青森県りんご協会(2020年3月):72-80
(2021/11/11)