第21回 リンゴの樹形と整枝・剪定
1.青森県のリンゴ樹形(普通栽培)
2019年における青森県のリンゴ栽培面積は20,476haである。わい化栽培(わい性台利用の密植栽培)の普及率は徐々に増加しているものの、普通栽培(マルバカイドウ台)は依然として76%を占めている(県りんご果樹課調べ)。
樹齢20~60年生で、10a当たり12~25本植えの普通栽培における樹形維持期の標準的樹形は図1のような開心形である。樹高は4~4.5m、樹冠の外形は半円形である。
〇リンゴ樹形の変遷
図2は青森県におけるりんご樹形の変遷である。
青森県にリンゴが導入された頃は特別な樹形はなく放任状態であった。その後10年位経過すると枯れた枝や日陰の枝を取る程度の自然円錐形であった。1905年頃になると、枝を何段かにする階段づくりになるが、樹高は5~6mになる樹が多かった。
1902年にシンクイムシ類が多発し、高い樹では防除が難しくなる。1905年に袋かけが急速に普及するにつれて、1913年頃から一挙に上部の枝を切り落とす一段づくり、又は歪状形と呼ばれる樹形が強力にすすめられた。
高い樹を一挙に切り下げた結果、主枝の背中から徒長枝が乱立した。それを果実の成る枝にどう変えていくか。生産者の剪定の試行錯誤と剪定技術の追求が始まる。
1921年頃になると、樹冠の外形が半円形となる開心形の原型ができ上ってくる。その後も樹形の改良が続けられ、1950年代の後半からはスピードスプレーヤーの導入に合わせた樹形の改良もあり、ほぼ現在の樹形ができ上った。樹形の変化は病害虫防除を効率よく実施することと密接な関係がある。
2.整枝・剪定の重要性
リンゴ樹を自然放任すると、無剪定樹(写真)に見られるように経済的生産は不可能となる。したがって、リンゴ栽培では作業効率がよく、高収量で高品質果実を生産する樹形をつくることが必要である。この目的に合った樹形にすることを整枝という。さらに整枝のために枝を間引いたり切ったり、花芽の数を制限することを剪定と呼んでいる。しかし、広い意味では、剪定のなかに整枝を含めることもある。
わが国では、リンゴは大きくて外観のよいものが要求される。赤色品種であれば、果実全体が赤く着色しているものでないと単価は格段に安くなる。そこで生産者は、大きくて色のよいリンゴをつくるために、一つ一つの芽にいたるまでよく観察して鋏を入れるていねいな剪定、ていねいな摘果に努力している。
図1に示した現状の青森県のリンゴ樹形はこのような目的に合うように、長年にわたり生産者の試行錯誤を経てつくり上げられたものである。この樹形(開心形)は樹冠各部によく光が入るように工夫され、また1個1個の果実に十分な手入れが行き届くように、樹冠は比較的低く、枝の配置に工夫がこらされている。これは世界で類のない樹形である。
〇剪定技術習得の難しさ
リンゴ樹は1樹1樹に個性があり、同じ品種であっても同じ樹相を示すものは皆無である。したがって、剪定はそれぞれの樹の個性に合わせて行わなければならない。このことは1樹内の枝についても同様である。
樹や枝の違いによって果実の品質は異なるので、高品質果実を揃えてできるだけ多く生産しようとするところに剪定の難しさがある。まず、観察眼を養って、樹や枝の相違を見極め、それぞれに適した剪定が必要である。
リンゴ生産者は、できるだけ短期間で剪定技術を習得しなければならない。このためには、多くの先達の残した教えにしたがって自ら剪定を実施し、剪定した樹の反応から自らの欠点を知り、その欠点の克服をしながら自らの技術の向上を図るしかないといわれている。
〇剪定技術の巧拙と生産性
剪定技術の巧拙がリンゴの収量・果実品質にどの程度の影響を及ぼすかについての、数量的なデータはないが、「ふじ」の育ての親として広く知られている齊藤昌美は、「リンゴ作りは枝切りから始まるー剪定の役割は7割だ」であると説いている。
剪定技術の巧拙によって10a当たりの収量が2.5t、5tと2倍程度の差をもたらすことは普通にみられる。剪定技術が劣るために、枝の配置や樹勢の調節がうまくいかず、樹冠内が暗くて着色のよい果実をとるのに苦労している状況は、しばしばみられることである。
参考文献
1)菊池卓郎・塩崎雄之輔(2005)新版 せん定を科学するー樹形と枝づくりの原理と実際.農文協
2)りんご生産指導要項(2020)青森県りんご生産指導要項編集部会編.(公財)青森県りんご協会発行
(2020/11/12)