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第10回 リンゴの甘さ

 リンゴの美味しさを作る要素として、甘味、酸味、肉質、香り、コク味(“ふじ”の育ての親といわれている斉藤昌美さんは塩っけといっていた)が挙げられる。

 リンゴの甘味は、あっさりとした甘味の果糖、自然でソフトな甘味で舌に残るショ糖、さわやかな甘味のブドウ糖、清涼感のあるソルビトールで作られている。

 リンゴに含まれる糖類の割合は、品種や栽培条件によって異なるが、果糖が5~8%、ショ糖が2~4%、ブドウ糖が2~3%、ソルビトールが0.5~1%である。

 これらの糖類の中で最も甘いのは果糖である。ショ糖を100とする甘味度は、果糖が115~173、ブドウ糖が64~74、ソルビトールは60である。

 リンゴ、日本ナシ、ブドウは食べる前に冷蔵庫に入れると甘くなる。冷やすとα型果糖がβ型果糖に変わるからである。β型果糖の甘味はα型果糖より3倍も甘く感じる。しかし、温州ミカン、カキ、モモは冷やしても甘味はあまり変わらない。

 リンゴは内側の種子のある部分より、外側の方が甘い。果実が枝に着いている頭の部分より、反対側のお尻の部分の方が甘くて美味しい。最初にできた組織は、早くから糖類が蓄積されるためといわれている。

「ふじ」

 〇 リンゴの「蜜」

 出来秋の完熟リンゴを割ると、果心部の周辺に水浸状の蜜がたまっているのを見かける。このようなリンゴは、食べる人に美味しさと甘さというイメージを与えて喜ばれている。一方では、リンゴに糖蜜を注入しているのではないかと誤解する人もいる。

 リンゴの蜜は品種の遺伝的性質によっておこる生理現象で、“北斗”、“ふじ”などに多く見られ、“つがる”、“ジョナゴールド”、“王林”などではほとんど見られない。

 リンゴの蜜は、果実円にソルビトールが蓄積されるためにおこる。ソルビトールは、ナナカマドの実から分離同定されたため、ナナカマド属の学名ソルブスの名をとったものである。甘味度はショ糖の60%と低い。リンゴ、ナシ、プルーンなどのバラ科の果実はソルビトール含量が高い。これらの果実を食べると食物繊維との相乗的効果もあって、ソルビトールには便秘防止効果がある。ソルビトールは工学的にも生産され、保湿剤、甘味剤など食品添加物として使用されている。

 光合成によって生成された光合成産物が果実に転流される形としてはショ糖が一般的であるが、リンゴなどのバラ科の果樹での光合成産物の転流物質はソルビトールである。

 未熟な果実では葉から転流してくるソルビトールは直ちに果糖やブドウ糖に変えられ、果肉細胞の貯蔵庫ともいえる液胞内に貯えられる。果実が活発に成長している未熟な時期ほど、ソルビトールから果糖やブドウ糖への変換はスムーズに行われる。

 しかし、果実が完熟段階に近づくにつれて、ソルビトールを果糖やブドウ糖に変換する酵素の活性が低下してくる。このため、葉から転流してくるソルビトールはそのままの形で果実に残り、細胞内でなく細胞と細胞の間に出ていき、水浸状の蜜となる。

 蜜の出ているリンゴは、それだけ樹になっている期間が長く、いわば完熟リンゴであることの証である。蜜が出ているから甘くて美味しいのではなく、蜜が出るほど完熟しているから美味しいのである。

 一方、欧米では蜜入りリンゴは一種の生理障害として嫌われている。貯蔵中に果実の内部が褐変する原因となるからである。

「ふじ」は蜜が入りやすい
蜜の入りやすい品種「ふじ」

 〇 糖度計

 リンゴの糖類を化学分析で測定する場合は実験装置が必要であるし、経費や時間がかかる。したがって、リンゴの甘さを表す数値を測定する場合には糖度計(正式には糖度屈折計)という器具を用いる。2~3滴の果汁でたちどころに糖度を測定できる便利なものである。

 糖度計の原理は、ある物質が水に溶けるとその濃度に応じて屈折率が変わるということを利用している。目盛りは純粋なショ糖液の20℃における濃度を示している。最近ではデジタル表示されている糖度計が使用されている。

 しかし、果汁の中には糖類以外の多くの成分があり、これらが糖度計の示度に影響を与える。“紅玉”のように酸味の強い品種では、実際に含まれている糖類より高い値が出る。また、同じ品種であっても酸含量の高い果実の糖度計示度は高くなる傾向がある。糖度計示度が化学分析値の糖類含量より2%程度高くなるのもこのせいである。

 なお、農協や移出業者には光センサー選果機が整備されており、糖度、蜜入り具合、内部褐変の有無などを非破壊的に測定している。

光センサー糖度計
生産者の中にはハンディタイプの光センサー糖度計を活用している方もいる

(2018/12/6)

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プロフィール

一木 茂

元青森県りんご試験場長。現在はりんごについて広めるべく、筆を執る。

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