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第11回 求められるリンゴ品種

1. 主力品種の栄光と挫折

 1)国光

 青森県でリンゴの品種別統計が出るのは1911年で、栽培本数の割合は「国光」48%、「紅玉」30%であった。この傾向はその後60年も続いた。

 津軽では「国光」を「雪の下」と呼んでいた。雪の下で収穫され、雪と寒さが天然の冷蔵庫となり、雪の下で追熟するからである。

 過去におけるリンゴ不作になる要因は、葉・花・幼果を次々と侵す風土病ともいわれたモニリア病(根雪期間の長さと関係する)の被害によるものであった。

 ところが、1963年産の「国光」はミカンの増産、バナナの輸入自由化など競合果実の増加により大暴落し、翌年5月に山や川へ1万トン以上も投棄された。いわゆる「山川市場」現象が起こる。長年トップの座を占めていた「国光」は1987年に統計から消えた。

 これを契機に「国光」からデリシャス系品種、「ふじ」への品種更新を余儀なくされた。

 1969年から3年間にわたり、全県で約7,000haの高接ぎ更新が行われた。樹齢50年を超える老木を、できるだけ生産を維持しながら品種更新を行ったことは、世界のリンゴ栽培歴史の中で例をみないと言われている。

「国光」
「国光」

 2)デリシャス系品種

 デリシャス系品種とは、「デリシャス」、その枝変わり(突然変異)である「スターキング・デリシャス」、「リチャード・デリシャス」など多数ある着色系品種及びスパータイプ(短果枝型枝変わり)品種の総称である。

 デリシャス系品種は1978年に栽培面積9,840haまでになったが、その収益性が1981年以降極端に下落したことから、栽培面積は年を追うごとに低下していった。

 その理由として供給過剰、着色系の枝変わり、スパータイプ系統の増加に伴う食味の劣る果実の早期出荷、暖地「ふじ」との競合、貯蔵障害のヤケ病、内部褐変などが挙げられる。短命に終わった最大の要因は、中生種の特性を無視した品質管理と時機を失した販売であった。デリシャス系品種は2002年に、その他品種に含まれるようになった。

 3)ふじ

 青森県において、「ふじ」の栽培面積が「国光」を超えるのは1976年、翌年には生産量も「国光」を超える。その後「ふじ」の栽培面積は年を追うごとに増加し、1997年には11,200haとピークになり、生産量に占める「ふじ」の割合は52.5%になった。

 青森リンゴの2016年生産量は447,800トンで、全国生産量の59%を占めている。品種別生産量の割合は「ふじ」50.2%、「王林」10.0%、「ジョナゴールド」9.9%、「つがる」9.6%、その他品種20.4%となっている。

2. 改植品種の動き

 青森県で、国の「果樹経営支援事業」を利用して、2007年から2013年にかけて改植のために伐採したリンゴ面積は702.3haであった。そこに栽植された品種の割合は「ふじ」が26.2%、「トキ」が17.2%、「早生ふじ系統」が9.4%であった。

 改植された品種の44.7%は「トキ」、「ぐんま名月」、「きおう」、「シナノゴールド」などの黄色品種である。これは担い手の高齢化や労働力不足により、着色管理に労力のかからない黄色品種へ切り替えしていることが伺える。

3. 品種別栽培面積の推移

 青森県の最近14年間における品種別栽培面積の推移をみると、「ふじ」、「ジョナゴールド」、「つがる」、「王林」の4品種が依然として基幹品種である。特徴的なことは、その他に区分される品種が2003年の9.3%から2017年に15.0%と大きく増加しており、新品種への関心が高まっていると思われる。

「王林」

4. リンゴ品種に何を期待するか

 1) 消費者の求める品種

 消費者がリンゴに求めるのは高糖度であるが、糖度とマッチした酸味も食味に大きな影響を与える。最近では酸味のやや低めの品種が好まれる傾向にある。食感ではパリパリ感のあるクリスプ性と、果肉にち密性のある品種が好まれている。

 消費者は棚持ちがよく、高い金額を支払っても満足できる品種を求めており、ストーリー性のある品種名に魅力を感じている。

 2) 生産者の求める品種

 現在の品種の食味は高いレベルにあるので、生産者はこのレベルを維持しながら、省力栽培に向く品種の開発を望んでいる。それは交配を必要としない自家結実性品種、側果が自然落果する自家摘果性品種、樹形がコンパクトになる品種、耐病性品種などである。

 青森県では品種とCA貯蔵の組み合わせで同年供給体制をとっている。有袋「ふじ」の減少により、無袋で4月以降に販売できる貯蔵性のある赤色品種の要求度は極めて高い。

 3) 付加価値のある品種

 現状の品種のみでは、リンゴの消費拡大に限界がある。大量流通には向かないが、潜在的なニーズに対応できる多様性のある品種も必要である。

 例えば、果肉の赤い品種、果肉が褐変しない品種、酸味のある生食・調理用兼用品種、ビタミンCやプロシアニジンなど機能性成分の品種などである。

表1 青森県の品種別栽培面積の推移(単位:ha)

  ふじ ジョナ
ゴールド
つがる 王林 陸奥 北斗 紅玉 その他
2003年 10,998
(47.1%)
2,583
(11.1%)
2,752
(11.8%)
2,749
(11.8%)
887
(3.8%)
861
(3.7%)
337
(1.4%)
2,164
(9.3%)
23,331
2008年 10,486
(48.0%)
2,351
(10.8%)
2,633
(12.1%)
2,394
(11.0%)
593
(2.7%)
620
(2.8%)
278
(1.3%)
2,486
(11.4%)
21,841
2013年 9,980
(47.6%)
2,072
(9.9%)
2,373
(11.3%)
2,221
(10.6%)
497
(2.4%)
544
(2.6%)
264
(1.3%)
3,031
(14.4%)
20,982
2017年 9,843
(47.6%)
1,965
(9.5%)
2,353
(11.4%)
2,146
(10.4%)
473
(2.3%)
525
(2.5%)
262
(1.3%)
3,099
(15.0%)
20,666

〔資料:青森県りんご果樹課〕
※端数処理のため、合計と内訳は一致しない場合があります。
※※%は全体に対する割合を示しています。

(2019/2/21)

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プロフィール

一木 茂

元青森県りんご試験場長。現在はりんごについて広めるべく、筆を執る。

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