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第32回 2023年産青森リンゴの生産概況

 2023年はリンゴの生育期間(4~10月)を通して気温が高く(図1)、8月はこれまでに経験したことのない高温となり、早生~中生種の品質や収穫量に大きな悪影響を与えた。しかし、「ふじ」などの晩生種は生産者の努力により美味しく仕上がった。

図1 2023年半旬別最高・最低気温(黒石)
注)6~9月(網掛け)は気温計測機器の不調のため黒石アメダス値により置換した。

 本稿は、青森県「攻めの農林水産業」推進本部が2023年11月30日に発表した「2023年産リンゴの生産概況」を参照した。

1.気象(黒石:りんご研究所)

1)気温

 気温は、生育期間全体をとおして平年並みから高く推移した。特に、6月及び8月の月平均気温は観測史上第1位に、7月及び9月は第2位に、10月は第3位と高くなった。また、真夏日44日、猛暑日を4日観測した(10月以外の観測値は黒石アメダス)。特に8月、10月は県内の多くのアメダス地点で35℃以上を観測し、弘前で39.3℃、五所川原で39.0℃と日最高気温の記録を更新した

2)降水量

 降水量は、5月上旬、7月中旬、9月下旬、10月上中旬は平年より多く、特に7月第3半旬は103mmと観測史上第2位となった。一方、8月は47.5mmで、平年比34%と過去20年間で最も少なかった。

3)日照時間

 日照時間は、4月中旬、6月下旬及び7月中旬を除き、平年並みから多く推移した。特に、8月は258.5時間と平年比149%と観測史上第1位となった。4月から10月までの総日照時間は1,330時間(平年比112%)となった。

2.生育ステージ(発芽~落花)

 リンゴの生育は、春先から気温が高く推移したことから、りんご研究所における「ふじ」の発芽日は、平年より15日早い3月23日と、観測史上最も早くなった。満開日は11日早い5月1日、落花日も11日早く5月5日で、いずれも観測史上第2位となった。

3.結実量

 結実量は、開花期の降霜により一部の園地で中心花の欠落などが見られたものの、開花量が十分にあったことから各品種とも確保された。

4.果実肥大(横径)

 開花が平年よりも早かったことから、果実の初期生育は平年を大きく上回り、りんご研究所における6月1日時点の「ふじ」の横径は、平年に比べて11mm大きく、平年比は169%と歴代1位同位の大きさでスタートした。しかし、8月の猛暑と少雨により肥大は急激に鈍化し、9月以降は平年並に推移した。

 りんご研究所における最終調査である11月1日の「ふじ」の横径は8.8cm(平年比99%)と平年並となった。

 県の生育観測圃における「ふじ」の果実肥大は、青森市は平年並、弘前市は平年をやや上回り、板柳町、三戸町では平年を上回った。

5.収穫期

 りんご研究所での果実熟度の進みは、早生品種は平年より7日程度、中生品種は5~7日程度、晩生品種も5~7日程度早かった。

 収穫始めは「つがる」は9月3日頃、「トキ」が9月23日頃、「早生ふじ」が9月24日頃、「ジョナゴールド」の有袋果が10月8日頃、無袋果で10月10日頃、「ふじ」は有袋果が10月25日頃、無袋果で10月30日頃であった。

6.果実品質(黒石:りんご研究所)

 果実品質は、高温のため赤色品種の着色が平年より劣るとともに、硬度及び酸度は低い傾向にあった。また、4月下旬の降霜、5月上旬の降雨、8月の強い干ばつ後の降雨による「さび果」の発生が多くなった。一方、糖度は平年に比べて全般的に高く食味は良好に仕上がった。

7.自然災害

 自然災害では、厳冬期の凍害とみられる枝枯れ症状がみられた。また、夏季の高温により品種と問わず日焼け果の発生がみまれた(写真)。さらに、高温のため着色不良や果肉の軟化もみられた。「トキ」、「ジョナゴールド」、「シナノゴールド」などでは、収穫前落果や過熟による落果がみられ、「ジョナゴールド」の有袋果では袋の中が高温になったことにより被袋期間中にも落果がみられた。

 また、野鳥による食害は例年より多く、山間地の園地ではクマの被害も深刻であった。

日焼けした果実

○参考資料

リンゴ果皮の着色と温度との関係

 リンゴの赤い果皮の色素はアントシアニンで、その合成には低温(15~20℃)が必要である。「ふじ」の着色時期である8月から収穫までの平均気温と果実表面色(カラーチャート値)の間には負の相関関係があった(図1-1)。この関係では、気温が1℃上昇すると表面色のカラーチャート値(図1-2)が0.43低下することになる。

 表面色のカラーチャート値(図1-2)が4未満の果実を着色不良果と仮定すると、8月から収穫までの平均気温が20℃より高い場合は着色不良果の発生が懸念される。さらにカラーチャート値が5以上の果実を着色良好と仮定すると、8月から収穫までの平均気温が17.6℃未満では着色良好な果実生産が期待できる。

 気象庁のアメダスデータを利用すると、試験期間(2015~2019年)の5年間で青森県の試験地では2年は17.6℃以上、秋田県と長野県の試験地では5年間とも17.6℃以上と、何らかの着色向上技術が必要とする状況になっている。今後、温暖化の進行により秋季の気温が上昇するとさらに果実の着色不良の発生リスクが高まる。

 各試験地における10年間(2009年~2018年)での年平均気温は、つくば(茨城)、長野、横手(秋田)、黒石(青森)でそれぞれ14.6、12.4、11.3、10.1℃であった。これは各試験地での平年値に比べそれぞれ0.8、0.5、0.4、0.1℃高い値であり、気温上昇が顕著な地域では温暖化の影響を緩和する対策技術を積極的に導入する必要がある。

文献名:
『わい化栽培のリンゴ「ふじ」における着色向上のための窒素施肥マニュアル(2020)』
本マニュアルは、農水省委託の戦略的プロジェクト研究推進事業「農業分野における気候変動適応技術の開発(温暖化の進行に適応する生産安定技術の開発)」により、(国研)農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門、(地独)青森県産業技術センターりんご研究所、秋田県果樹試験場、長野県果樹試験場が共同で実施した研究成果に基づいたものである。

(2023/12/27)

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プロフィール

一木 茂

元青森県りんご試験場長。現在はりんごについて広めるべく、筆を執る。

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