Vol.10 西部の早撃ちガンマンが、りんごを撃ち落とす
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』の舞台はアメリカ西部アリゾナ州、出演者の多くもアメリカの俳優たちだが、監督のレオーネはイタリア人、製作国もイタリアだ。実は1960年代から70年代にかけて、イタリアの映画製作者たちが次々に西部劇をつくりだしていた。アメリカの西部劇を真似、スペインなどの荒野で撮影されたこの異色の西部劇は、マカロニ・ウェスタン(スパゲッティ・ウェスタン)と呼ばれ、一つのジャンルを作りだした。
Vol.9 真っ赤なりんごと赤い唇の女の子
それは、1939年に製作された映画『オズの魔法使』を初めて見たときのこと。主人公の少女ドロシーがセピア色の嵐を抜けたとたん、色に溢れた世界が待っていた。見たことのない景色に呆気にとられるドロシーと一緒に、私もまた、突然現れた色彩の饗宴ぶりに呆然と見入ってしまった。10歳のドロシーがひょんなことからオズの魔法の国に迷い込むこのおとぎ話は、児童文学からミュージカルまで、世代を問わず多くの人々に愛され続けてきた。
Vol.8 りんご酒をめぐるキツネたちの戦い
すっかり寒くなり、りんごが美味しい季節になった。ところでりんごが好きなのは人間だけだろうか。そんなことはないはずだ。りんごが好物の動物は多い。動物園では象や猿のえさにもりんごが使われているし、先日紹介した映画『アダムズ・アップル』を見ると、どうやらカラスも相当のりんご好きらしい。
Vol.7 デンマークから生まれた奇妙なりんご映画
映画のなかで、私たちは知らず知らずにりんごの姿を目にしている。食卓の上に当然のように置かれていることもあれば、登場人物がランチやデザートに齧り付くこともある。前にもこのコラムで書いたが、アメリカの学校の教卓には、しばしばりんごやそれをモチーフにした置物が置かれている。…
Vol.6 りんごに齧りつく女たち
アメリカ映画をよく見ていたせいか、小さな頃、りんごをまるごと囓ることに憧れた。家では毎日のようにりんごを食べていたけれど、食べるときは皮を剥き、8等分に切るのが普通だった。ある日、今日こそは、と子供心に決意し、真っ赤なそれにがぶりと齧りついたときはドキドキと心が踊った。…
Vol.5 白雪姫と毒りんご
りんごの出てくる映画についてコラムを書いています、と言うと、2回に1回は「映画の中のりんご? となるとやっぱりあの映画ですか?」と聞かれる。真っ赤なりんごに齧りつく少女。そう、誰もがよく知る『白雪姫』だ。グリム童話が原作だが、一般的には、ディズニーのアニメ映画のイメージが有名だ。…
Vol.4 りんごを磨く人とは誰のこと?
映画のなかで、外国語の表現を知るのは楽しい。たとえば、子どもの頃に大好きだった『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(ロバート・ゼメキス監督、1985年)。マイケル・J・フォックス演じる主人公が、いつもある言葉を言われると我慢できずにキレてしまうのだが、吹き替え版ではたしか「腰抜け」と言われていた。大きくなり、字幕版を見て気がついた。実際に主人公が言われていたのは「Chicken(チキン)」という言葉。英語では、「Chicken=腰抜け」という意味で使われるのだと教えてくれたのは、学校の授業ではなく、たしかにこの映画だった。…
Vol.3 バカンスとシードルは甘くない
大きな鞄に荷物をたっぷり詰め込んで、友達と、恋人と、田舎町へのんびり遊びに行く。山でピクニックをしてもいいし、海で日光浴をしたり、家のなかでひたすら読書を楽しんだっていい。とにかく仕事や勉強のことは忘れて2、3週間、ただ飲んで食べて寝て、をくりかえす。最高に楽しくてすてきな、あこがれの、夏のバカンス。そんなバカンスへのイメージがどうやら幻想にすぎないらしい、と気づいたのは、フランス映画を見始めたからだ。…
Vol.2 りんごは、大人と子どもの友情を紡ぐのか?
りんごを手にした子どもたち。その光景を想像するとふと笑みがこぼれそうになる。子どもとりんごという組み合わせに、純真無垢さの象徴を感じるからだろうか。子どもの手に握られると、小さなりんごでも妙に大きく見える。そのアンバランスが可愛くもあり、どこか懐かしい気持ちにもさせられる。 古今東西、大好きな映画は山のようにあるけれど、そのなかでも不朽の一本がある。…
Vol.1 アメリカ映画とりんごのパイ
古き良きアメリカなんて、そんなもの、小説や映画やテレビドラマの中の理想化された姿にすぎない。そうわかってはいるのに、やっぱり憧れてしまうのだからしかたがない。では「古き良きアメリカ」の象徴といえばなんだろう? まず浮かぶのは、ジュークボックスを備えた昔ながらのダイナーレストラン。そこで食べるのは、ハンバーガーやステーキ、ビール。それからもちろんアップルパイも。でも、アップルパイなら、…