Vol.19 --- 農家で作られるシードル&カルヴァドス
リンゴから作る醸造酒、シードル。フランスでは、北西部に位置するノルマンディ地方とブルターニュ地方、南西部にあるバスク地方が主な産地ですが、とりわけノルマンディ地方のシードルは高い名声を得ています。そしてノルマンディ地方の中でも、カルヴァドス県を中心とするペイ・ドージュ地域は、とりわけ良質なシードルを産する地域として有名。12世紀にはすでにシードルを作っていたそうです。この地域で作られるシードルは、AOP(保護原産地呼称)というタイトルを得ており、これを得ているシードルはこの地域とブルターニュ地方のコルヌアイユ地域の2つのみです。
AOPペイ・ドージュを名乗れるシードルを作る農家は20軒ほど。伝統的な製法で、大手メーカーとは違う、農家製ならではの魅力的なシードルやカルヴァドスを作っています。シードルとカルヴァドスの製造に許可されているリンゴの種類は40種ほど。それぞれの農家はここから20種前後を選んで栽培するケースが主流です。
秋に鈴なりになるリンゴを収穫したのち、洗浄と痛んだリンゴの取り除きを行い、粉砕。農家によっては粉砕したリンゴをしばらくおいて、リンゴの皮から出てくるアロマをより多く引き出します。その後プレスして果汁をとりわけ、発酵がスタート。発酵が浅ければ果汁の糖分が多く残り甘口(Doux)になり、発酵が進むにつれ半甘口(Demi-sec)、辛口(Brut)となり、一番発酵が進んだ超辛口のものはカルヴァドスの製造に利用されます。
低温で時間をかけた発酵が特徴のAOPペイ・ドージュのシードルは、他の地域のものに比べて色が濃い美しい琥珀色。苦味もきちんと残っているため、半甘口くらいに仕上げると、苦味とのバランスが最もよくなるそうです。
超辛口シードルを蒸留させて作るカルヴァドスは、コニャックやアルマニャックと並ぶ、フランス自慢の蒸留酒。シードルを2度蒸留させたのち、オーク樽で熟成させたものです。樽の大きさや古さなどにより色あいや香りが変わり、どんなイメージのカルヴァドスに仕上げるか、ここも農家の個性と腕の見せ所になります。
大手メーカーも作っているシードルやカルヴァドスですが、大手ものは誰にも好かれる反面、個性が乏しい。でも、この地域のように農家が作るものは、多少の欠点はあるかもしれませんが、それも含めて個性がよく出ていて、飲み比べると同じシードルやカルヴァドスとはいえ、農家によってその味わいの魅力は実に様々です。地域色と生産者の特徴をはっきり打ち出したペイ・ドージュ地域のシードルとカルヴァドス。その美味しさは、フランスはもとより世界中に輸出され、愛されているのです。
(2017/3/1)