Vol.16 --- タルト・タタン in Paris
タルトと並んでリンゴを使ったお菓子の定番、タルト・タタン。砂糖とバターでカラメリゼさせたリンゴとタルト生地を合わせて焼いた、シンプルなお菓子だ。
“タタン”は、このタルトを生み出したとされるステファニー・タタンが由来。19世紀、フランス中部のソローニュ地方はラモット・ブヴロンという小さな村でホテルレストランをやっていたのが、ステファニーと妹キャロリンだった。
ある日、タルト・オ・ポム(リンゴのタルト)を作ろうとしていたステファニー。忙しさのあまり、カラメリゼしたリンゴを、タルト生地をまだ敷いていない型に敷きつめてオーブンに入れてしまった。途中で気づき、失敗を隠すため、上からタルト生地をかぶせ、再びオーブンに。焼き上がりをひっくり返してみると、サクサクタルト生地の上に甘くジューシーな焼きリンゴ、その表面はカリッと飴化した、すごぶる美味しいタルトが!客らは大喜び、失敗から偶然生まれたこの美味しいお菓子を“タルト・タタン”と名付けたそうだ。
大きく焼いて、ほんのり暖かい状態で一人分ずつカットし、酸味の効いた濃厚な生クリームを添えたものをレストランでいただくのが定番だが、パティスリーでも様々な形のタルト・タタンを提供している。
人気パティスリー「ブレ・シュクレ」のタルト・タタンは、かわいらしいリンゴの形。しっとりした食感が魅力の厚めのサブレ・ブルトンの上に、薄切りにして何十枚も重ねて焼いたリンゴをトッピング。表面は薄くカラメリゼ。リンゴはとろけるような食感でとびきりジューシー、甘さと酸味が絶妙のバランスだ。
シックなサロンドテ&食材店&ブーランジュリー&パティスリーの「ブレッド&ロージーズ」は、伝統的なタルト・タタンに忠実な、くし切りにしてカラメリゼさせたリンゴが主役。ジューシーかつ噛みごたえが残ったリンゴは、ちょっと焦げた感じの苦味が甘みと酸味を引き立てている。下に敷いたタルトは、フイタージュ(パイ生地)。さくさくの生地の中央にカスタードクリームが少し忍ばせてあり、リンゴの上には甘いホイップクリームを重ね、リッチ感たっぷりの高級タルト・タタンだ。
タルト・タタンの魅力は、砂糖やバターをたっぷり吸わせながらじっくり焼いたリンゴが溶けてコンポートのようにならないこと。焼き崩れしにくい、レイネットやゴールデンなどの種類を使うと上手に焼ける。
(2016/3/30)