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vol.6 皿の上の、おいしい出会い

梅の実がまだ小さく堅いころに、藤田記念庭園(弘前市大字上白銀町)の無料開放日に出かけてきました。日本商工会議所会頭を務めた実業家の藤田謙一が、1919(大正8)年につくらせた日本庭園で、洋館、和館、倉庫などが国の登録有形文化財となっています。

弘前市を代表する観光名所ですが、ことしは、別冊少年マガジン(講談社)で連載中の『ふらいんぐうぃっち』がテレビアニメ化されたこともあって、各地からファンが足を運んでいます。同園も本編に登場した場所の一つだからです。

アニメに明るくないわが家でも、「舞台になった街に住んでいるのだから一度観てみるか」と軽い気持ちでいたら、すっかりはまってしまって、最終回まで楽しんでしまいました。

市民にはなじみ深い、実在のスポットがたくさん登場するので、一度観たら引き込まれてしまうのではないでしょうか。のぼりやポスターで飾られた商店街や、走りゆくラッピングバスや電車から、地元での盛り上がりが伺えます。

藤田記念庭園
藤田記念庭園は、金沢兼六園などと同じ池泉(ちせん)廻遊式庭園。
歩きながら、多種に咲き誇るショウブの景趣が楽しめます

アニメ『ふらいんぐうぃっち』に登場する、喫茶コンクルシオのモデルとなった大正浪漫喫茶室
アニメ『ふらいんぐうぃっち』に登場する、喫茶コンクルシオのモデルとなった大正浪漫喫茶室。
二礼二拍手一礼で入りましょう

同園をくまなく散策したあとは、敷地内にある「大正浪漫喫茶室」でティータイム。市内の有名菓子店6店舗のアップルパイをいただくことができます。

今回は、ぜいたくにバニラアイスを添えて。これはおいしい! アップルパイとバニラアイス、想像以上に相性抜群です。

りんごは火を通すことで、品種本来の風味が力強く前に出てきます。パイの香ばしさとともに果肉のうまみを味わったら、二口目には、ひんやりアイスをとろりとからませて。酸味と甘味がまろやかになって、やさしい甘さが口いっぱいに広がります。生地がサクサクタイプなら、なお、おすすめです。シャクシャクと砕ける食感がアクセントとなって、舌の上がにぎわいます。

手入れの行き届いた美しい庭園を眺めながらのひと休みは、いやしのひととき。残念ながら「ゆうれいのひなちゃん」や「夜のとばりさん」には会えませんでしたが、アップルパイとバニラアイスのマリアージュに舌鼓を打ちながら、日ごろの疲れをすっかり洗い流すことができました。

『クローヌ洋菓子店』のアップルパイ
『クローヌ洋菓子店』のアップルパイをチョイス!
このサクサク感くせになりそう

店の看板と同じデザインの紙ナプキン
店の看板と同じデザインの紙ナプキン。
細部にまでノスタルジックなかわいらしさが

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マリアージュといえば、フランス語で婚姻を表し、ひいてはワインと料理の食べ合わせについていう言葉ですが、職場でもしばしば「ワインとおすしは合うのですか」などと聞かれます。

料理人である夫の意見はさておき、まるっきり素人の、私個人の感想として言いますと「合うのも、ある」ということです。

いやいや、それ言ったらみんなそうじゃん、という声が聞こえてきそうですが、例えば「シーフードには白ワイン」という一般的なイメージの中でも、お料理によっては「ん?」と首を傾げてしまうものもあるからです。

わかりやすいところでいうと、塩辛。これと白ワインの組み合わせは、あまり良くないように感じます。共に口に入れると地獄の汁のような味がします。どの銘柄・産地のワインでもダメです。いえ、ダメな気がします。あくまでも私の感想です。

ほかのお店で、両者抱き合わせで売られていてもまったく気にしませんし、おいしいといって一緒に召し上がっている人も見たことがあります。

私もワインは好きですが、白よりも赤を飲む割合が若干高めです。余った魚介や、すしにならない部位を賄いや自宅で食べるのですが、白だとこの上ないくらい相性が良いものと、絶対に合わないものとの振り幅が大きいのに比べて、赤はその差が小さいように思えるからです。

赤が肉料理に合うのは、獣肉特有の油分と風味があるためですが、海産物においても脂の多い魚種はたくさんありますし、甲殻類や貝類もそれぞれにかなり個性的な香りがあります。

たっぷりのオリーブオイルとニンニクでアクアパッツァにするのと、お酒とおしょうゆとみりんで炊くのとが違うように、調理法や調味料によっても味わいが違います。

ワインにも甘いのもあれば辛いのもありますし、品種もさまざま。北半球でも南半球でも作られている、本当にグローバルな飲み物です。その特性や相性をすべて理解するのは、腕の立つソムリエでない限り難しいことでしょう。

そんなわけで、塩辛のパートナーとしては日本酒が本命。うちでは塩辛に酒粕を使っていますから、舌なじみが良いのかもしれません。

時に、九州のおしょうゆ、中でもとりわけ甘い鹿児島のおしょうゆが好きですが、以前取り寄せたときに「あれ、前食べたときとなんか違う!」と感じました。

あれできびなごや鳥刺しを食べると舌がうなるほどなのに、三陸や陸奥湾の魚介につけても、いまひとつなのです。同じ土壌や風土から生まれたものであったり、そこで生きる人の食文化が息づいているというのも、好相性たるゆえんなのでしょう。

いつかは「塩辛にはコレだ!」と言える白ワインに出合えるかもしれません。今のところは、成功と失敗を繰り返しながら、いえ、正確に言うとチャレンジ精神をもってスリルを楽しみながら、日々の食事に臨んでいます。

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相性でもう一つ思い悩むのがシャリ、すなわち、すし飯です。シャリが残ってしまうと必然的に賄いとなるのですが、これをいかにおいしく食べるかというのも、私の研究案件です。

ここで紹介したい、リメイクレシピ。それは、オムライスです。

「え! オムライス?」と思った主婦の方は、ぜひ試してみてください。手巻きずしパーティーなどで残ってしまうすし飯、ありますよね。時間がたつと硬くなってしまい、もう一度すし飯として利用するのは難しいです。

オムライスだと、ケチャップそのものに酸味があるので、すし飯を使っても気にならない利点があります。砂糖や塩で下味がついているので、調味の手間もありません。具も冷蔵庫の残り物で十分。コショウを少々ふって、卵でくるむだけで、立派に一品できあがります。うちの店では定番の賄いメニューです。

余ったすし飯はケチャップライスに
余ったすし飯はケチャップライスに。
炒めることで酸味が飛び、良いあんばいに

ある日の賄い
ある日の賄い。
自家製ごま豆腐(はじっこ)入りおみそ汁とともに

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失敗作はカレーです。すし飯に、スパイシーで風味豊かなあのソースをかけると、どういうわけか悪魔の一皿になります。別々に食べるとおいしいのに、本当に不思議です。二度と食べるもんかと思います。

某回転すし店の人気メニューで、シャリでいただくカレーがありますが、素晴らしいと思います。カレーに合うシャリなのか、シャリに合うカレーなのか。どちらにしても、よほど研究を重ねないと完成しないことがわかります。

市販のルーを溶かすだけのおうちカレーでは、すし飯とのマリアージュははるか遠いようです。

食材の持つ力は計り知れませんね。皿の上に彩られる一期一会を、大切に味わいたいものです。

2016/7/26

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プロフィール

上原 香織

盛岡市生まれ。土手町「鮨たむら」女将。出版社、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動。結婚、夫の転勤を機に弘前市に転居する。現在は夫婦ですし店を切り盛りしながら、青森のおいしいものを探索中。趣味は観光と登山。一児の母。
「鮨たむら」の店舗情報http://www.seijiro.jp/sushitamura/index.html

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