りんご大学ロゴ画像

vol.4 毎日食べたい“聴くりんご”

レジで支払いをしていたとき、足元でカシャッと音がしました。視線を落とすと、手に持っていたはずの鍵の束が落ちていました。握っていた皮のキーホルダーの一部が切れて、鍵が外れてしまったのです。さっきまで何の問題もなかったのに、前触れなく切れるものなのね、と驚いてしまいました。

これは、私が社会人1年目に上司からいただいたものです。マンションの鍵をなくして一晩家に入れなかった私に、「キーホルダーぐらいつけとけ」と言って、自分のキーホルダーをくれたのでした。

あれから15年は経っています。いただいたこと自体うっかり忘れていましたが、考えてみると、よくもったものです。

20代のころは転勤が多かったので、引っ越した部屋の数だけ鍵が入れ替わりました。車や職場の鍵も付き、結婚してからは夫の車の分も加わりました。

長い年月、さまざまな鍵とともに身の安全を守ってくれたかと思うと、急にこのキーホルダーに愛着がわき、いとおしく感じてなりません。突然の引退宣言にも「お疲れさま!」と乾杯したい気分です。

くたくたのキーホルダー
15年分の汗と涙と思い出がしみ込んだ、くたくたのキーホルダー。
次の15年を共に歩んでくれるパートナーはまだ決まっていません

区切り線

「ところで、一番長く一緒にいるものは何だろう」

ふと、頭をよぎりました。 メガネ? 辞書? コーヒーミル?

あ、スーツケース!

愛用しているのは、国内旅行用の小さめのものです。

18歳の夏、所属していた大学の合唱団で、新入生にとって初めて大きなコンサートが開催されることになりました。ローメンで有名な長野県伊那市で行われ、その後は軽井沢を旅行して帰ってくる計画だったので、「たっぷり荷物が入り、肩に担がなくてよいものを」と、仲の良い友人とおそろいで購入しました。価格は8000円ほどでしたが、貧乏学生にとっては大きな買い物で、かなり思い切ったのを覚えています。

それからというもの、初めての海外旅行も、ホテル住まいの長期出張も、富士山に登ったときも、初めて夫の実家へあいさつに行ったときも、とにかく1泊以上自宅を離れるときは、お供となって私の旅先について来てくれました。

今でも実家に帰省するときや、旅行へ出かけるときは、必ず引っ張って行きます。

大きな故障もなくここまできましたが、先日乗った特急電車でヒヤリとした出来事がありました。荷棚に上げようとした際、持ち手を留めているねじが外れてしまい、ナットの役割をしていたカバー部分がバコッと音を立てて外れ、床めがけてはじけ飛んだのです。誰かに当たっていたら……と思うと寒気がし、すぐに修理しました。

20年以上使用していますから、親と過ごした時間さえ超えてしまいそうなほど、共にいた頼もしい相棒です。いつかは壊れるでしょうが、できるかぎり大切に使ってそばに置いておきたいです。

20年選手のスーツケース
こちらは20年選手のスーツケース。最近は息子が引きたがります。
自宅では「宇宙船」と称して中に乗り込んだりするので、壊れやしないかと横目でヒヤヒヤ

区切り線

物でなくても、毎日していることというのも、長くなればなるほど思い入れが強くなります。寝る、食べる、着替える以外で、自分の意思で欠かさずしている日課はありますか。

私の場合、出勤日は必ずラジオを聞いています。コミュニティーFM局の「アップルウェーブ(平成12年3月開局)」です。名称は、弘前市がりんごの生産量日本一であることに由来しています。

初めて耳にしたのは、引っ越してきて間もなく、土手町の通りを歩いているとき。

小鳥のさえずりと「みなさん、りんご便りの時間です!」という女性の声に続いて、津軽地方におけるりんごの生育状況、栽培における留意点、今後の予定や事故対策までお知らせする「りんご生産情報(中南地域県民局地域農林水産部による)」が、商店街中に響き渡りました。

ほぼ毎日、市街地で、りんごが今どんな状態であるか放送されるなんて、地元の方には申し訳ないですが、「とんでもない田舎に引っ越してきてしまった!」と衝撃を受けました。

地域で行われる行事や天気、ニュースや緊急特報。聴いてみると、アップルウェーブは、そのような当たり前のコンテンツだけでは成り立っていないのです。

学校給食の本日の献立。外国の人や高齢者向けに、簡単な日本語でゆっくり伝える暮らし情報。いなくなった猫見つけてください、保護したインコの飼い主連絡ください、などのペット捜索。リクエスト曲は、最新曲より昭和の名曲。パーソナリティーが積極的に繰り出すおやじギャグ。節分には、全身に色を塗って鬼になり、子どもたちの標的になるリポーター。スタジオ前で行われる宵宮祭りでは、総出で縁日を手作りし、中継を盛り上げる社員の皆さま。

ラジオネームだけでなく、家族構成や趣味、ちょっとした体調の変化までこちらが記憶してしまうほど、毎日の出来事を欠かさず投稿するヘビーリスナーも1人や2人ではありません。きっと、この方たちにとってはパーソナリティーとのやりとりが日課なのでしょうね。

アップルウェーブ ストリートビュースタジオ
職場の目の前にある「アップルウェーブ ストリートビュースタジオ」。
3年前の土手町コミュニティパークの完成とともに、お向かいのビルから現在の場所にお引越し。
クリスマスの時期はライトアップもきれいです

区切り線

コンテンツの話からずれてしまいましたが、つまり、番組の作り手と聴き手の距離がとても近いのです。

主に聴くのは、朝9時に出勤してから11時30分に店を開けるまでの約2時間半です。掃除をしながら、事務処理をしながら、相も変わらず「田舎くさいな~」と思って聴いています。それでも、ラジオをつけない日はありません。だって、寂しいんですもの。あの声を聴かないと、今日もがんばって仕事するぞーという気合が入らないのです。

津軽に手っ取り早くなじむには、情報誌やパンフレットよりラジオだな、と3年住んだ今では確信しています。おかげさまで津軽弁も少しは聞き取れるようになりましたよ。

今日も周波数は78.8のまま。県外から来た私のような者にも、津軽の暮らしを楽しめるように、笑いと安心を届けてくれます。聴くりんごは、まさに“心に効く”のです。

ジョナゴールド
本文では触れませんでしたが、今、生りんごが旬です!
初競りでは驚きの高値がつく岩手県産ブランド品「江刺りんご」、
ことし初めて買っちゃいました!
金の掛け紙がかけられた1個ン百円の味は……。
うーん。決してひいき目ではなく、
ご近所の人から分けていただいたサンふじ(キズ)のほうがおいしかったです。
新鮮とれたてで味はバツグン、さすがりんご王国!
※写真はジョナゴールドです

2015/12/10

バックナンバー

<バックナンバー一覧>

上原香織のコラム一覧


プロフィール

上原 香織

盛岡市生まれ。土手町「鮨たむら」女将。出版社、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動。結婚、夫の転勤を機に弘前市に転居する。現在は夫婦ですし店を切り盛りしながら、青森のおいしいものを探索中。趣味は観光と登山。一児の母。
「鮨たむら」の店舗情報http://www.seijiro.jp/sushitamura/index.html

新着情報

〈新ブログ一覧〉
〈旧ブログ一覧〉

海外のウェブサイト

繁体中文簡体中文English

りんご大学からのおすすめ

Page Top