vol.1 読んで、学べる、小世界
わが家では、1年365日のうち370日は絵本を読んでいる、というほど、毎日の生活に絵本が欠かせません。平日なら2冊。休みの日は少なくとも5~6冊は読んでいます。
就寝前に親子で楽しむのですが、4歳になった息子は、ふとんの中でうとうとと眠りにつくタイプではなく、どちらかというと目をらんらんとさせ「もっと、もっと」と催促してくるほうです。寝かしつけのアイテムにはならないのですが、コミュニケーションツールとして定着しています。
日課になったきっかけは思い出せませんが、読み聞かせを息子に強制したことはありませんし、絵本をたくさん持っているというわけでもありません。おもちゃと一緒に並んでいるのは、せいぜい10~20冊くらい。物が増えると片付けるのが面倒になってしまうので、保育園から絵本購入の案内がきたら買い足すか、帰省ついでに自分の書棚から少しずつ持ってくるかというところです。
そんなわけで、普段は弘前市の図書館を利用しています。駅前町に「こども絵本の森」ができてからは駐車場も便利になり、より通いやすくなりました。子どもの興味や成長に合わせて、無料で何度も借りられるので、わが家では大変重宝しています。
昨秋は「ご試食コラム」のおかげで、自宅にはさまざまなりんごがストックされていたのですが、図書館で選ぶ本も少なからずりんごに影響されたように感じます。
収穫の最盛期を迎えたころには、マーガレット・レイ&ハンス・アウグスト・レイの『おさるのジョージ りんごりんごりんご』という本がお気に入りでした。主人公のジョージが、お手伝いに行った農園のりんごを、ひとりでジュースにしてしまうというお話です。収穫からびん詰めまでの流れが、シンプルに楽しく描かれています。
自宅で繰り返し読むうちに、荷台がりんごでいっぱいになった搬送車を目にすると「あのりんご、ジュースになるんだよ!」、「じゃぶじゃぶあらって、こまかくきってから、ぎゅうっとしぼるとできるんだよ!」などと解説するようになりました。
りんご狩りも食育の一つですが、絵本を通じて「なるほど」「面白い」と感じる経験もまた、食育になりえるのだと実感した出来事です。
当時「こども絵本の森」では、りんごの絵本コーナーが設けられていましたが、これも津軽ならではの企画ですね。岩木山の裾野がりんごで赤く染まるのも、市場が一晩中明るいのも、この地で生まれ育った人には当たり前のことかもしれませんが、県外から転居してきた私たちにとって、街中がりんごであふれる光景はとても刺激的なものです。
大人の学びもまた然り。
コラム執筆中は、私の頭の中もりんごでいっぱいでしたが、息子の様子を見て一つ思い出した絵本がありました。ヤーノシュの『おばけリンゴ』です。
びんぼうな男、ワルターのりんごの木には、一度も実がなったことがありません。ひとつでいいから実がなりますようにと祈ると、ある日願いは叶えられました。ところが、その実はどんどん大きくなっていき……。
主人公と周囲の人々の喜びと悲しみが描かれたお話です。ドイツの児童文学界では有名な作家で、本作は初期のころの独特なタッチと素朴な色彩が人気です。
名作と呼ばれていますが、子どものころはあまり好きではありませんでした。理由もわからず大きくなるりんご。「おばけ」という名前。闇の中を、大きなりんごを背負って歩き続けるワルターの影。灰色の肌の王様。“リュウ”の周りを取り囲む “ひみつけいさつかん”の表情など、幼い私には不気味に思えたのです。
今回「そういえば、うちにもりんごの本があったな」くらいの気持ちで手に取ってみたものの、昔ほどの恐怖心はありませんが、やはりどこか不思議な世界。ただ、改めて目を通してみると、りんごにまつわる疑問がふつふつとわいてくるのです。
おかげで、ドイツりんごに関する豆知識がちょっぴり増えました。ドイツの国土面積は日本と変わらないのに、りんごの生産量が上回っていることや、皮ごと食べるのが主流のため農薬の基準が厳しいこと、ジュースとしての消費も多いこと、りんごのことわざがあること、などなど。余談ですが、ポーランド出身のヤーノシュが、なぜドイツの作家と呼ばれるのかも少しですが勉強しました。
ストーリーと関係のないハテナばかり。答えは目からうろこの知識でも、人に話せるほどの話題でもありません。けれども、時には大人も自己満足で「なるほど」と感じてもいいですよね。家事や育児、仕事に忙殺される中で、「ドイツのりんごについて考える時間があった」ということが私にとっての有意義なのです。
こうなると、次は「ドイツに行ってりんごを食べたい」となってしまうかも。いえいえ、まずはドイツパンをりんごジャムでいただいて、行った気分になるところから始めます。
2015/4/1