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vol.11 ほっと、おいしい、旬りんご

一年でもっとも生りんごのおいしい季節がやってきました。

それなのに、生粋の青森県民は、りんごを買わないといいます。なぜでしょう。

それは、親せきや知人にりんご農家のいる人が多く、収穫の時期になると、たくさん譲られるからです。

収穫前に落ちてしまったものや、色や形がふぞろいのもの、傷やつる割れがあるものなど、規格外の果実は加工品用になるか、産直などで売られるか、自宅で消費することになります。

おなかに入る量には限りがありますので、各農家で消費しきれない分は、友人やご近所さんはもちろんのこと、会社の同僚やママ友・パパ友、習い事仲間、よく行くお店の店員さんなど、ありとあらゆる知り合いにお裾分けされていきます。

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ちょっとだけ真面目な話になると、2016(平成28)年度の青森県のりんごの生産量は、44万7800トンで、全国1位を誇ります※(第2位長野県14万2100トン、第3位山形県4万5700トン)。全体の収穫量が76万5000トンですから、国内の約6割のりんごが青森県産ということになります。一方で、消費量となると、第1位岩手県、第2位青森県、第3位秋田県という結果になっています。

消費量は、家計調査つまり購入量で産出されていますから、実際に青森の人がどれだけりんごを食べているかは統計上でわかりません。これが「りんごを買わない」イコール「りんごが家でとれる」または「りんごはもらうもの」という「青森県民あるある」を表しているのかもしれませんね。住んでみると、りんごの郷だからこそ起きる、このような面白いことも見えてきます。

「青森の人はりんごが身近にありすぎて、これがぜいたくだってことに気付いていない!」と、西日本出身の夫はよく言います。私もどちらかというと小さいころから食べ慣れているので、そうかしら、と思うのですが、改めて考えるとそうかもしれません。

学生時代は関東で過ごしましたが、一人暮らしをしている者には、しばしば実家から故郷の味覚が送られてきます。そんなとき、青森県や長野県出身の友人は、きまって段ボールいっぱいのりんごでした。夜な夜な皆で集まって食べたりんごは、とてもおいしく、遠方出身の子には特に好評でした。

さて、ことしの収穫も最盛期を迎えたころ、私にも一通のメールが。

「香織さん、前にりんごの食べ比べコラム書いていましたよね。今、知り合いのりんご園で収穫を手伝っているので、よかったら食べませんか」

私「いいんですか。毎日食べるのでいただけるならありがたいです!」

「私も食べきれないので、訳ありでもよければもらってください」

というような、やりとりがあって、その日のうちにビニール袋いっぱいの、もぎたてりんごが届きました。

確かに販売しているのよりは小さめで、傷も色むらもあったのですが、驚いたのはその鮮烈な香り! 店先でも味わったことのない強烈なアロマが、袋からあふれ出てきたのです。例えるなら、果汁がミスト状になって顔面にシュワーっと降りかかってきた感じ。

大げさだと思いますよね。いえいえ、本当に驚きますよ。採れたばかりの果実がそのくらい強い生命力に満ちているという証です。

待ちきれず、ナイフを入れてみると、切り口から滴る果汁の量も半端なものではありません。一年間、大地の栄養と太陽の恵みをたっぷり吸いこんで、実の中で熟成させたうまみを、一気に放出させたようです。歯切れの良いシャッキシャキの食感もたまりません。豊かな甘みのあとに爽快な酸味が追いかけてきて、体の隅々まで走り抜けていきます。もいですぐでないと絶対に味わえない、この濃いりんごの味!

県外の人は、どうしても、出荷からお手元に届くまで時間がかかりますから、こういった経験はできないでしょう。実りの秋に、青森を訪れることがあれば、ぜひ最寄りのりんご園に立ち寄り、収穫体験にご参加ください。お店で買うのも良いですが、その日食べる分だけでも、りんご狩りで手に入れてほしいものです。きっと、本物のりんごの味に出合えるはずです。

弘前に引っ越してきて5年になりますが、知り合う人が多くなるとともに、年々いただくりんごの量も増えてきました。「私たちも少しずつこの地になじんできたってことかな」と夫婦で話しています。

ある日のいただきもの、その1
ある日のいただきもの、その1。品種名がわかるように手書きのメモが添えられていました
ある日のいただきもの、その2
ある日のいただきもの、その2。「サンふじ」が出回るといよいよ冬の到来です

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珍しい品種を食べる機会もありました。「4-23(よんのにじゅうさん)」というりんごです。特徴は果肉が赤いこと。芯の周りまで濃く色づく「紅の夢(くれないのゆめ)」と違って、色はうっすらとしたものですが、果皮に近い部分に霧のように色がさしているのがおわかりでしょうか。

個体番号で呼ばれているのは、新品種だからではありません。1968(昭和43)年に交配育成され、1975(昭和50)年に選抜されていますが、芯かびやつる割れなどのトラブルが多く、品種登録がされなかったためです。つまり、名前を付けてもらえなかったのですね。味は良いので産直などでは売られていますが、地元以外ではめったにお目にかかれないので「幻のりんご」とも呼ばれています。

「このりんご食べたことないね」と言いながら試食していると、鰺ヶ沢から通う同僚が「それ、小さいころから自宅で食べていたりんごです」と教えてくれました。やはり、昔から番号で呼んでいたそうです。

そうそう、りんごを品種名で呼ぶのも「県民あるある」ですね。赤りんご、青りんごではなく「トキ」「千秋」「未希ライフ」などと、きちんと名前で呼ぶあたりに、りんごへの愛着を感じます。「つがる」「おいらせ」「むつ」などは、地名と間違えてしまいそうです。

果皮の朱色が中までしみ込んだような「4-23」
果皮の朱色が中までしみ込んだような「4-23」。
実は硬めですが、果汁が多く、すっきりとした甘みがあります

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家族は生りんごが大好物なので、朝昼晩と飽きずに食べ続けていますが、初雪も降って寒さが増してきたので、温かいりんごを食べてみることにしました。

焼きりんごです。

試してみたのは「大紅栄」「きおう」「彩香」の3品種。洗って、芯をくり抜いて、レーズン、砂糖、バターを詰めて、シナモンを振りかけます。リキュールはお好みで。お鍋に入れて、弱火で待つこと30分。簡単にできる、冬のおやつです。

大紅栄は、大きくて中まで火が通るか心配でしたが、果皮のとろみとサクッとした果肉のバランスが絶妙で、とても美味でした。実が粗めのきおうは、もともと多汁なせいか、全体がやわらかく溶けて、食べ応えのあるジャムのよう。彩香は、一番小さかったのですが、本来のきめ細かい肉質や酸味がきちんと生きていて、まろやかに仕上がっていました。いずれも鮮度が良かったせいか、鍋にはたっぷりジュースが出ていました。

醍醐味は皮!実からはがれてもよけたりしないで、とろける果肉とともに口の中へ。厚みや舌ざわり、香りが異なるので、各品種の個性をより堪能することができます。

パンを添えればきちんとした食事になるし、バニラアイスを乗せればデザートに。ワインにも合いそうなので、冷え込む晩のお供にも良いかもしれません。

今夜も、温かい一皿とともに、北国の夜が更けていきます。

焼きりんご
一番大きいのが「大紅栄」、手前が「彩香」、奥が「きおう」。
熱々をハフハフ言いながら食べたの、久しぶりでした

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※農林水産省「作物統計」、総務省「家計調査」および同調査をもとにした「都道府県別とランキングで見る県民性」「地域の入れ物」参照

2017/12/9

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プロフィール

上原 香織

盛岡市生まれ。土手町「鮨たむら」女将。出版社、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動。結婚、夫の転勤を機に弘前市に転居する。現在は夫婦ですし店を切り盛りしながら、青森のおいしいものを探索中。趣味は観光と登山。一児の母。
「鮨たむら」の店舗情報http://www.seijiro.jp/sushitamura/index.html

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