vol.12 春の宴は、りんごで乾杯!
雪解けとともに日が暖かく差すようになり、春の息吹を感じられるようになりました。花粉症なので「ああ、ついにこの季節がやってきたか」と、かかりつけ病院の診察券を探し始める一方で、扉を開けて青空を仰ぐときには、早春の風が心地良く、気持ちが浮き立ちます。
出会いと別れの季節とも言いますが、職場でも、学生のアルバイトスタッフが大学卒業とともに巣立っていきました。
毎年、春休みに入ると「追いコン」さながら、お疲れさま会を開きます。スタッフが食べたいものを夫にリクエストし、私が飲み物やおつまみをそろえて、全員でごちそうを囲みながらわいわい食事をします。
アルバイトに入りたてのころはこうだったとか、将来はどんな仕事をしたいのかとか、付き合っている彼氏はどうするんだとか、たわいもないことを延々とおしゃべりしながら、食べ疲れるまで続きます。
最後に、手紙をもらいました。「あとで読んでください」というので、自宅へ帰ってから目を通しました。私たちにはもったいないくらいの言葉や気持ちがたくさん詰まっていて、共に過ごした時間がよみがえってきました。いなくなるのは寂しいけれど、第一志望に就職が決まり、新たな希望に満ちている姿に、家族のように誇らしい気持ちです。
学生時代のアルバイトなど、どんどん記憶が薄れて、いつかは忘れてしまうかもしれませんが、ここで得た経験がどこかで役に立ってくれたらいいなと願います。そして、近くに来たときには顔を見せてほしいです。それだけで、また、私たちは元気をもらえるのですから。
歓送迎会の時期を過ぎると、間もなくお花見の季節がやってきます。日本各地で楽しみにされている行事ですが、言うまでもなく、弘前は屈指の観光地として知られています。
主な観桜スポットである弘前公園内には、約2600本の桜があり、実に多くの種類を、さまざまなロケーションで楽しむことができます。
日本最古のソメイヨシノや、日本最大幹周のソメイヨシノ、棟方志功が命名したシダレザクラなど、一本で圧倒的な存在感を示す古木名木があれば、随所で観られる華麗な桜並木や、視界いっぱいに広がる桜のトンネルなど、群れで観る姿も圧巻です。
また、岩木山や、弘前城の天守閣、昭和の香り漂う露店群など、名所とともに愛でる桜もたまりません。散ったあとにさえ絶大な美しさを放つ花筏(はないかだ)は、SNSで火がついてからすっかり名物として定着しました。いずれも、日が落ちてライトアップされると様変わりし、昼間とは違った風情を楽しめるのも一興です。
一年の半分ほどが寒さに包まれていながら、春にはこうして素晴らしい桜を楽しめるのも、桜守(さくらもり)や樹木医と呼ばれる専門家が、一年を通じてお手入れをしてくれるおかげです。
これには、りんご栽培の管理技法がお手本になっているともいわれ、津軽地方で培われてきた、剪定や施肥などの高い技術をうかがい知ることができます。
さくらまつり期間には、全国から多くの観光客が足を運びますが、こうしたりんご農家の努力が礎となっていることに、少しでも触れて帰っていただけたらうれしく思います。
桜を観に来る人に併せておすすめしたいのが、青森県産のシードルです。
シードルとは、りんごの発泡酒のことです。スーパーや居酒屋でもよく見かけるようになりました。
昭和28(1953)年、弘前の酒造メーカーの社長・吉井勇氏が、欧米を視察した際にシードルと出合い、同29(1954)年、朝日麦酒株式会社(現アサヒビール)と連携し、「朝日シードル株式会社」を設立しました。同31(1956)年に販売を開始したのが、日本におけるシードルの始まりと言われています。つまり、弘前は国産シードルの発祥の地ともいえるわけです。
代表的なものでは、ニッカシードル(アサヒビール株式会社)、タムラシードル(タムラファーム株式会社)、kimoriシードル(株式会社百姓堂本舗)、AOMORIシードル(A-FACTORY)などがあり、いずれも弘前市内の飲食店でいただくことができます。
観光案内所では「弘前シードルマップ」も無料で配布されており、上記商品の提供店舗情報が詳しく掲載されています。購入や地方発送ができるところもあるので、お土産にも最適です。
最近では、できたてを味わえる「樽生シードル」や、ふるさと納税の返礼品に採用された「弘前アポーワイン」など、若い生産者が地場りんごのおいしさを伝えようと、新商品がどんどん発信されているようです。
品質の良いりんごを使っているだけに、中には少々値が張るものもあります。日々の晩酌に飲むのには少しばかり高級ですが、普段とは違ったお酒を楽しみたい日や、楽しい休日をもっと有意義に過ごしたいというときに、ぴったりなアイテムです。
無理なく身近に、少しずつ気軽に楽しむことで、地元のりんご農家や醸造所を応援できれば、今後はさらに「地シードル」を飲める場や種類が増えるかもしれません。
秋に出る新酒のような、鮮度満点のおいしさも二重丸です。けれども、あえて押したいのは今。凍てつく冬を超えて、草木の芽吹きに、心もからだも解き放たれるころ。レジャーシートを広げて、ピクニックしたくなるような陽気に。待ち望んだ青空の下で飲む、お日さま色のりんごのお酒。私の中の、北国のシードルは、そんなイメージです。
桜とりんごは、弘前の代名詞。一緒に味わうなら今ではないですか。
2018/4/5