あおもりの四季とりんごの楽しみ
5月、弘前市内から岩木山の麓まで続く20kmのアップルロード。頂に雪を残した岩木山をバックに可憐な白いりんごの花が一斉に咲きます。花摘みや受粉など、りんご農家さんの忙しい季節がいよいよやってきます。畑の小屋の軒先に下がったぎゅぎゅっと葦(よし)がつまったりんご箱。りんご園を飛び回り受粉を助けてくれるマメコバチのすみかです。人の手でひとつひとつ受粉することもありますが、後継者不足でマメコバチに任せる農家さんが増えてきているそうです。青森市内の中心商店街の街路樹は5月になるとクリームがかったピンク色のお花が可憐に咲き誇ります。これは姫りんごの花です。ぎゅぎゅっとつまって咲く様子は町の中にいながらもりんごの花の季節を感じる事ができます。スーパーや直売所では冷蔵庫や雪室から出てきたばかりのりんごが出回り、まだまだフレッシュな果実をを楽しむことができますがそろそろ「ぼけりんご」の季節でもあります。いたるところに温泉のある県ですので、そんなりんごは湯船にぷかぷか浮いて香りでたのしませてくれるところもあり春のドライブの先の楽しみのひとつです。
8月、津軽地方のお盆は「法界折(ほうかいおり)」という精進料理のお弁当を作りお墓やお仏壇にお供えしてご先祖様をお迎えします。これを津軽の人は縮めて「ホカイオリ」さらに「オリ」と言います。とうもろこしや枝豆、スイカ、きゅうりの酢のものなど夏にとれる身近な野菜料理と寒天で作った丸い鏡天、赤飯などをオリに入れます。家庭によって入れるおかずは違いますが共通するのはお墓に供えたあと、その場でみんなでオリを食べる事。私の母方の実家の墓地は青森市浪岡樽沢地区にあるりんご畑のど真ん中にあります。お盆にお参りに行くと、ぐるりとりんごの木に囲まれたどのお墓にもオリと一緒に青いりんごが供えられています。「なつみどり」というシーズンで一番最初に収穫されるりんごの品種です。青くて小さいなつみどりを皮ごとかじるときゅっと酸っぱく、渋いその味は夏の終わりと秋の始まりを感じさせる少し切ない味なのです。
緑一面だったりんご畑がにぎやかな赤に彩られる秋。りんごの木箱を積んだ軽トラックが畑の中の道を忙しく駆け回る季節です。いよいよ手が足りなくなって収穫の手伝いに駆り出される事もあります。ひとつひとつ違う表情は「色づきが足りないな」「春先のヒョウの傷跡かな」はしごの上で思いを巡らせます。夢中になってあっという間に時間が過ぎ、頭の上で声がして見上げるとはるか上空を白鳥の隊列が通過していくところです。10月下旬、りんご畑では収穫が終わりすっかり葉を落としたりんごの木が荷を降ろして枝をのびのびとしているように見え、思わずお疲れさまでしたと声をかけたくなる風景が広がります。木箱に入ったりんごが親戚からやってきて、毎年この季節は車庫や廊下がほんのりとりんごの香りになります。地元では千成(せんなり)と呼ばれる小さい紅玉やツル割れフジなどが入っていて春先まで楽しめます。ジャムやコンポート、コールスローに入れたり、干しりんごにしたり。いつだったか「紅の夢」を収穫し、ジャムを作るお手伝いをしたことがありました。果肉の色が紅色で酸味の強い加工用のりんごです。圧力釜で加熱すると鮮やかに発色し、うっとりしてしまいました。最近ではクッキングアップルと呼ばれる加工向きのりんごの品種も増え何を作ろうか悩むのも楽しみのひとつです。
12月、りんご畑も街もどこまでも真っ白な世界が広がります。ここから約4か月の間は雪で閉ざされた生活の始まりです。家の中にこもりがちな冬の貴重な運動が雪かき。どかっと降った朝、雪かきのあとうっすら汗をかいて家の中に入ったら冷蔵庫を開けて缶入りの冷たいりんごジュースをくいっと。あおもりでは飲みきりサイズのジュースが年中冷蔵庫に常備されているお家は多いのです。雪の街にきらきらイルミネーションが映えるクリスマスにおすすめなのが「アップルサイダー」小鍋にりんごジュース1缶、シナモンパウダー小さじ1/8、クローブ1粒、あればオールスパイス1粒をあわせて弱火にかけます。10分程度時間をかけて沸騰直前まで温めたら火からおろしオレンジスライス1枚と一緒にマグカップへ。ふわっと立ち上るスパイスの香りとりんごの甘酸っぱさがクリスマス気分を盛り上げます。直径5センチほどの姫りんごに先ほどのクローブをぷすぷす刺して、シナモンパウダーをまぶしたら、ガーゼや紙の袋に入れ涼しい場所にぶら下げておきます。乾いたらリボンを結んでクリスマスの飾りアップルポマンダーのできあがり。
ここ数年でお正月に見かけるようになった鏡餅。みかんの代わりにアルプス乙女などの姫りんごがちょこんと座っています。赤と白で可愛らしく、青森らしいのでもっと浸透したらいいなと思う習慣です。お正月に欠かせない「なます」も人参の代わりに皮ごとせん切りにしたりんごを大根に加えると、こちらも紅白でおめでたくおいしい冬のりんごの楽しみ方です。
2022/4/4
高谷 優子
スマイル&スプーンキッチンスタジオ(青森市)オーナー
野菜ソムリエ、製菓衛生師、だしソムリエ、アスリートフードマイスター2級。あおもりの豊かな食材を活かし「いつものごはんをていねいに」を心がけ、スタジオでのランチ提供の他 お料理教室、和菓子教室を開催している。
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