りんごと薬膳
「薬膳」と聞くと、漢方の生薬がたっぷりつかわれた薬膳鍋や、数多くのスパイスがつかわれた薬膳カレーをイメージされる方が多いことでしょう。それもあながち間違いではありませんが、本来、薬膳とは中医学(中国伝統哲学から発展した医学)理論をベースにして、食べる人の体調に合わせてつくられた食事のこと。生薬やスパイスをつかわずとも、食べる人の健康を考えてつくられた食事であれば、どんな料理でも薬膳と言っていいのです。
例えば、子どもの頃、風邪で寝込んでいた時などに、「りんごのすりおろし」を食べさせてもらった経験はありませんか? 私は祖母がスプーンですくって口元に届けてくれたすりおろしりんごだけは、熱にうなされていた時でも喉をスーっと通った記憶があります。ひと手間かかるすりおろしりんごは、普段はつくってもらえなかったので、不謹慎ではありますが病気になった時の楽しみでもありました(笑)。
すりおろしりんごは、食べやすく、おなかにやさしく、体力を回復させるための栄養も豊富です。食べる人の体調に合わせて用意された食事と考えれば、すりおろしりんごでさえも薬膳のひとつと言えるでしょう。本格的に薬膳を実践しようと思えば、中医学の知識が必要になってきますが、このように深い知識がなくても感覚的に昔から実践されていることは少なくありません。
では、一歩踏み込んだ薬膳の観点で「りんご」を見てみましょう。
◎薬膳の観点から見た「りんご」 | |
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食 性 | 平性(温熱性でも寒涼性でもない) |
食 味 | 甘(気血を補う、消化器系を整えるなど) 酸(収れん、咳を止める働きなど) |
効 能 | 健脾(消化器系を健康に) 止渇(口の渇きを止める) 生津(体内に潤いを生じさせる) 潤肺(肺を潤す) |
適 応 | 消化不良、下痢、口渇、消渇(糖尿病)、から咳 |
(参考文献:薬膳食典 食物性味表)
薬膳では、その食材を食べることでからだにどんな影響があるかを、食性(熱性、温性、平性、涼性、寒性)、食味(酸・苦・甘・辛・鹹)などで分類します。
りんごの食性は平性。冷え性の方でも暑がりの方でも気にせず食べられる食材です。調理法でも食性が変わりますので、冷えが気になる方は加熱調理で、からだに熱がこもっている時は冷やして食べてもよいでしょう。
りんごの食味は甘と酸。薬膳では「酸甘化陰」と言う用語があります。「甘みと酸みの両方を摂れば陰(体液)になる」という意味で、からだの乾燥予防にもりんごはおすすめです。それぞれで考えると、「甘」には、疲れを癒やし、緊張をやわらげる働きが、「酸」には収れんして、開いたりたるんだりした部分を引き締める働きがあるとされています。
りんごの品種によっては、甘みが強いもの、酸みが強いものがありますから、例えば、パワーチャージしたい時は甘みの強い品種を、おなかがゆるい時や多汗が気になる時は酸味の強い品種など、体調に合わせて食べる品種を選んでみてもいいかもしれません。
最後に、薬膳の本場香港の街で見つけたディスプレイをご紹介します。
A HAPPY APPLE A DAY, KEEP THE DOCTOR AWAY
FEEL THE HAPPINESS
2021/8/7
タナカトウコ
青森県生まれ(南部と津軽のハーフ)、東京都在住。“食”まわりのフリーランサーとして、商品開発、企画プロデュース、レシピ考案の他、日本野菜ソムリエ協会発行「野菜ソムリエ通信」の編集執筆にも携わっている。保有資格は野菜ソムリエプロや漢方カウンセラーなど。簡単おつまみとなんでもない日の薬膳レシピを得意とする。著作に「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」「毎日おいしいトマトレシピ」等がある。
●ホームページ http://urahara-tanaka.sblo.jp/
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