第100号 満開の山桜と新緑のブナを満喫
夏至祭を寸前に控えた6月24日、病院で働いている三女とボーイフレンドが、休暇も兼ね当地マルカリドに立ち寄りました。2人共2年前にルンド大学医学部を卒業した後、現在は2年間の実習期間中です。夕方にスパークリングの白ワインを飲みながら、下火になったとはいえ、まだ油断出来ない新型コロナの感染状況の話し合いをしました。若者達は既にこの春、2度目のワクチン接種をし、我々夫婦もこの6月始めに2度目の接種で不安も薄らぎつつあり、今少しの辛抱だと話し合いました。
家内はまだ役所で働いていて、市から住民への補助金申請書で、一部の申請では医師からのサインも必要なので、どの様に医師達は判断しているのだろうかと聞いていました。医師によってかなりのブレがある様でした。私の方は、逆に三女から「パパ、首相の不信任案が最近国会で可決されたけど、どうなるの…?」と聞かれ、「政党の世界、各党とも中々譲れないのでしょう。ただ来年(4年に1度の)総選挙を控え、臨時選挙にはならないと思うけど…。」と答えた次第です。若者達のカラッとした意見を聞いていると、我々も元気になるのでした。
さかのぼること5月中旬の週末、次女達の住んでいるルンドへと1泊の予定で車を走らせました。途中ルンドから20キロ程手前の町べべロード(Veberöd)に立ち寄り桜を見て来ました。1、2年程前に、桜が綺麗な自然公園がルンド近くにあると聞いていたので今回初めて訪れた訳です。日本では今年の桜は例年より2週間程早かったとも聞きますが、逆に当国では例年より1、2週間程遅れ、自然公園の桜も遅れてるのではと予想して、5月中旬の土曜日に立ち寄ってみました。自然公園は両側の丘に囲まれた、広大な公園と言うより自然の森で、案内標識の説明書によると、丘になっている起伏は氷河の流れに沿って出来た丘で、その丘に野生の桜かと思われる山桜が散らばる様に咲いていました。
時期もちょうど満開という感じで、土曜日の休日、天気も良く家族連れが目立ちました。首都ストックホルム中心部にある王立公園の桜は有名ですが、スウェーデンに40年以上住みながら、南スウェーデン、ルンド近辺に桜の綺麗な所があったとは全く知りませんでした。自然公園には出店や売店は無く駐車場もチョット離れていたのですが、自然の中で憩うにはとても良いと思いました。所々に水溜りもありましたが、ズックで歩く分には問題も無く、我々は丘に上がり下界の眺めも楽しみました。持って来た魔法瓶のコーヒーを飲み、お菓子を食べ憩いました。
べべロードの山桜は、スウェーデンの児童文学作家の代表者アストリッド・リンドグレーン(Astrid Lindgren)が1973年に書いた「はるかな国の兄弟(Bröderna Lejonhjärta)」で登場し、後年映画化もされ、その桜の風景がとても印象的だったのを覚えています。説話によるとリンドグレーン女史が生前童話を書く前現地を訪れ、自然公園を「桜の谷(Körsbärsdalen)」と名づけたとも言われ、童話の中でも兄弟の住んでいる所として書かれています。もっとも、私は山桜を見た後に解説書で読み初めて知らされ、今更ながら女史のファンタジーの豊富さに驚かされている所です。
ルンドで迎えた翌日の日曜日は小雨が降りそうなどんよりした天気。それでも2人の孫達を連れ、次女家族とどこへ散歩に行こうかと話し合いました。次女達は2週間程前、ルンドから北東に25キロ程の所にあるブナ林の自然保護区へ行き、とても神秘的で良かったけど、まだブナの新緑ではなかったので今一度行ってみたいとの事で、ピクニックを兼ね昼食も用意して車を走らせました。自然保護区の大きい駐車場は天気が優れなかったからか、まだ午前中で早かったからか、わりとガランとしていました。駐車場までの途中の山道では既に沢山のブナの新緑がとても綺麗に見られました。まっすぐに成長したブナの樹木の中にはとても太いブナも見られ、100年は超えていると思われるのでした。駐車場近くの地面は湿っぽく、所々ベビーカーがぬかるんだりもしました。
300メートル程進んだら、ブナの木々が低くグニャグニャに曲がっているところがあり、チョット異様な感じを覚えました。次女がこの辺のブナは「曲りくねりのブナ(Vresbok)」と呼ばれているとの事で、近年では「曲りくねりのブナ」が少なくなり、南スウェーデンではこの辺だけではとも説明してくれました。いかにも曲がりくねっていて、ブナと言えばまっすぐに伸び、大木ともなると貫禄もあるのですが、これは異様な感じがしました。案内標識の説明書には、「妖精の森(Trollskogen)」と書かれていて、いかにも合っていると思いました。
自然保護区はかなりの広さで、ずーっと林の中を歩いて行ったら、今度はゆったりした広々とした丘が広がり、そこは遠く5キロ程先までも見渡せる高台になっていました。平地のずーっと向こうに村や林が見え、小麦と思われる緑色の畑が広々と見られ、太陽の光線が雲の割れ目から耕作地に指している景色はとても神秘的で印象に残りました。多分妖精の森などを見た後だったので、大地の広大な風景にも感動したのかも知れません。
3歳半のチビは疲れたのか、1歳のチビのベビーカーに這い上がり、下の子の方は次女がおんぶし、今更ながら風景もノンビリ楽しめない幼児の家族は大変だな…とも思いました。次女が「おじいちゃん、チビは熱が少しあるみたいで、元気がない…」と、チビを心配する次女の姿に、かつては4人の育児に追われフーフー言っていたのを思い出しました。次女家族とは駐車場で別れ、チョット名残惜しさも感じつつ皆元気で何よりと、我々は更に120キロ程北上した自宅へと車を走らせました。
2021年7月10日
スウェーデン在住、弘前市出身、工藤信彰