第97号 コロナ禍の近況報告と久しぶりの遠出
前回、1月の終わりに当国スウェーデンのクリスマスの様子を書いてから、既に半年以上が過ぎました。2月以来新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)で、ヨーロッパでも感染拡大を防ぐために国境が閉鎖され、多くの国々では一時国民の外出も時間的に規制されました。幸いスウェーデンは割りとオープンの国で、外出制限まではいきませんでしたが、50人以上の集会や催し物は控えるようにと注意され、また多くの祭りやコンサート、イベントも中止、あるいは観客無しでの開催となりました。新型コロナウイルスは特に高齢者の死亡者が多いだけに、70歳以上の人は必要以外では外出を控えるようにと注意されました。
そんな訳で、この夏まで我々夫婦も、ほとんど子供達や孫達にも会わなかったのですが、8月頃から少しずつ会うようになりました。感染者の多い首都ストックホルムで新聞記者として仕事をしている長男の報告では、3月から事務所への出社が控えられ、アパートからソーシャルメディアを使っての仕事で、ようやくこの8月からポツポツとインタビュー、会議への参加も出来るようになったとの事でした。
そうそう、4月の下旬頃だったか、中部スウェーデンの病院で医師として働いてる末娘から、写真が送られて来ました。「パパ、ママ…新型コロナへの補助器具を最近受け取った、もう感染の心配は無いから安心して…」と。ところが写真を見たら、軍隊か工事現場で使っているようなガスマスク着用の娘の姿で…世界中パンデミックで医療器具不足とはいえ、チョット心配にもなりました。
スウェーデンの場合、病院はほとんどが県営で医療施設はかなり整っているのですが、老人施設は市営または民間経営で、さらには近年の人手不足に伴いパートタイマーのアルバイトが多く、医療設備が少ない上に労働経験が少なく、残念ながら新型コロナウイルスの感染対策が上手く出来ず多くの犠牲者を出しました。統計では現在(2020年9月)まで、スウェーデン全国で感染者約8万人、そして約6千人の死亡者で、約半数は老人施設の住民と報告されています。多分今後の社会福祉計画にも多くの課題を残すのではと思われます。
9月には毎年恒例の南スウェーデン東海岸で「シビックのりんご祭り、(Kivik Applemarknaden)」が行われるのですが、今年はコロナのため中止となりました。そんな9月の中旬、マルカリドから国道4号線を南下約60キロ、さらに20キロ程田舎道を走った所にミョーフルト(Mjöhult)と言う村があり、この村のクラ果樹工場(Kullamust)に行って来ました。平地の真ん中に小さな村があり、そこに果樹工場がある、そんな感じです。かつてこの村(町?)には鉄道の駅があって、首都ストックホルムからデンマーク首都のコペンハーゲン行きの列車が停車していたとの事、そして列車はさらにドイツの首都ベルリンまで走っていたそうです。筆者にとってはミョーフルト村はまったく初めて聞く地名で、その地にりんごジュース工場、販売店及びカフェがあると聞き訪れてみた訳です。
私が訪れたのは週末の午後2時頃、当日はとても天気が良く、車でマルカリドから向かいました。手元の地図を見ながら車を走らせると、古く高い建物があったので、もしかしたらと車を止めて見たら、りんごジュースの看板がありわかりました。
カフェで迎え入れてくれたのは若いハンプさん(Hampus)で、芸術家のような感じの人でした。りんごジュース工場は約90年前の1929年にスタートしたとの事、現在でも同じ手法でジュースを作っていると説明してくれました。
現在では従業員は10人から15人で、生産は年間を通して行われています。1990年代にはジュース工場が下火になったのですが、現在の経営者カールソン兄弟が現れ、兄弟はジュース生産の経験がなかったにも関わらず、すでに80歳となっていたジュースマスターのスベン・アンデスソンさんに教わり生産を活性化したとの事でした。それで近所の人々も喜び、住民が庭に植えていたりんごを工場に持ち込み、ジュースを作ってもらうようになったそうです。筆者が訪れた時にも、2~3組の家族の人達が大きい袋に新鮮な沢山のりんごを持ち込み、ハンプさんに目方を測ってもらい、引換券を受け取っていました。ハンプさんの話では、1キロ当たり2クローナ(約23円)で、当日あるいは後日引換券でクラ果樹工場の商品と引き換える事が出来ます。
りんごジュースは家具メーカのイケアでも販売されていて、スウェーデン国内だけでなく、アジアではフィリピンでも売られているとの事です。カフェでクルミ入りのクリームがたっぷり盛り上がったアップルパイを食べ、コーヒーを飲みながら午後のひと時を憩いました。
2020年10月6日
スウェーデン在住、弘前市出身、工藤信彰