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第70号 北欧一のブックフェア ボックメサ

9月の下旬、西海岸にあるスウェーデン第二の都市ヨーテボリ(Göteborg)へ行って来ました。毎年秋に行われる、北欧では一番大きいブックフェア、ボックメサ(Bokmässan)を見に行く為でした。今まで幾度かボックメサについて聞いてはいたのですが、一度も行った事がないのでとても興味がありました。ボックメサは毎年9月の下旬、1週間近くの期間にわたって行われ、約10万人の参加者で賑わいます。スウェーデンのボックメサがヨーロッパ、また世界的に名が知られているのは、ノーベル賞受賞者の発表が翌週の10月の第1週に行われるので、文学賞受賞者の予想が分かるとも言われているからです。

ボックメサ会場、スウェーデン展示会場
ボックメサ会場、スウェーデン展示会場

ノーベル賞受賞者の発表について書いてみると、12月の授賞式にともない毎年10月の第1週に受賞者の発表が行われます。第1日目の月曜日は医学生理学賞の発表、今年はこの初日に日本人大隅良典氏と発表され、それも単独だっただけに話題を呼びました。第2日目の火曜日は物理学賞、水曜日は化学賞、そして木曜日が文学賞受賞者の発表となります。特に文学賞の発表には、世界中からマスメディアがストックホルムへ集まって来ます。発表式は午後1時、アカデミーの事務所のあるガムラスタンという古い町の旧証券取引所で、スウェーデンアカデミーの秘書によって行われます。

ところが今年は文学賞の発表が1週間延ばされ翌週の木曜日と報告されました。アカデミー会員で秘書のサラ・ダニウス(Sara Danius)女史が病気がちだったので遅れたのかとも思われましたが、ニュースでは事務手続きの間違いと説明されました。翌週の10月13日の発表では、音楽家のボブ・ディランと発表され、近年文学賞の有力候補の1人に上げられていた村上春樹氏は残念ながら指名されませんでした。

村上春樹氏の本
村上春樹氏の本

ボックメサについての話に戻しましょう。当地からボックメサの会場のあるヨーテボリまでは車で約200キロ程の距離です。今年のボックメサは9月22日から25日迄の4日間、筆者が訪れたのは9月24日の土曜日でした。ヨーテボリは日本で言えば大阪のような港と商業の町、また車のボルボの町としても有名です。ボックメサの会場はヨーテボリの中心部近くにある、スウェーデン展示会場(Svenska Mässan)の大きい建物です。

ボックメサ会場内 2階から
ボックメサ会場内 2階から

会場に近づく程に沢山の人々で混み合っていて、今更ながら有名なボックメサを実感しました。1985年から始まったボックメサは毎年テーマを決めていて、2013年はルーマニア、2014年はブラジル、そして昨年2015年はハンガリーと、近年はそれぞれの国をテーマにしていたのですが、今年2016年のテーマは「言論の自由」(Yttrandefrihet)と趣の変わったテーマでした。主催者の説明では近年世界的に「言論の自由」が拘束されつつあるからと伝えられました。ボックメサへ出展しているのは全国の出版社、中央新聞社、大手メディア、月刊誌、週刊誌発行社と共に国の諸機関、また市町村や各団体さらに愛好会等です。

週刊誌フォークスのブース
週刊誌フォークスのブース

今年のボックメサで大きいニュースになったのは、開会前に極右翼協会の月刊誌発行社の参加が最初主催者により断られたのですが、テーマの「言論の自由」に違反するのではないかとの意見も出され、開会寸前に参加が認められました。ところが今度は多くの参加者や他の協会がその発行社の会場でデモをしたりで、ニュースにもなりました。筆者が参加した当日も、極右翼協会ブース前はぎっしりの人々で発行社代表と観客との意見が熱く交わされていました。

すぐ向かいが国会議事堂のブースだったので、「大変ですね」とチョット声を掛けてみたら、「我々はイデオロギーについてコメントしませんよ」との返事、さすがとも思いました。更に30メートル程先は革新系の月刊誌のブースで、同じ質問をしてみたら「残念に思っています」との返事でした。

ルンド大学展示ブース
ルンド大学展示ブース

もっと進んでいったら、スウェーデンアカデミーのブースがあったので、「今年の文学賞は…」と聞いてみたら、ただ笑顔だけの返事でした。アカデミーは毎年スウェーデン語の辞典を発行しているので1冊購入しサインをお願いしたら「私はアカデミー会員ではありませんよ…」との返事でちょっと渋られたのですが、「記念ですからお願いします」と再度お願いしたらサインしてくれました。

さらに奥に進んだら、ジャーナリストとして、また作家としても有名なヤン・ギロ氏(Jan Guillou)が片隅に座っていて自らの最新出版本にサインしていました。早速本を購入して、サインをお願いしました。「名前は…」「クドウ…どう書くのかな…」と言われ、免許証を見せたら、ギロ氏はポケットからメガネを取り出し、「クドウか…」と書いてくれました。「私は本よりジャーナリストとしての評論文が好きですよ、今後も頑張って下さいね」と別れました。次女はギロ氏の本が好きなので、後日贈ろうと思いつつ家路につきました。

ヤン・ギロ氏にサインを求める
ヤン・ギロ氏にサインを求める

2016年11月17日
スウェーデン在住、弘前市出身、工藤信彰

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プロフィール

工藤 信彰
Nobuaki Kudo

1949年弘前市生まれ。大学時代に3年程休学し、ヨーロッパを旅したことがきっかけで、大学卒業後スウェーデンに渡る。スウェーデンにてルンド工科大学を卒業し、一般企業へ就職するが、経済学を学ぶため退職しルンド大学経済学部へ入学する。卒業後は1990年~2015年までマルカリド市役所勤務。マルカリド市議会議員(2006年~2018年)を経て、現在は環境党マルカリド党首及び、クロノベリ県議会執行役員を務めている。

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