第44号 ルンド大学パーキンソン病研究所
北欧の学生の夏休みは6月の第2週頃から始まります。小学校から高等学校の夏休みは8月中旬頃まで、大学は8月末までで、9月1日から秋学期(新学期・新学年)が始まります。スウェーデンの大学街では、学生や大学関係者が多く、普段は活気づいていますが夏中はガランとした感じになります。
つい先日、6月中旬に南スウェーデンの大学街ルンドを訪ねました。古い町だけに、夏の旅行者が目立ちつつも若者達の姿は少なく、何か空虚感をおぼえました。大きい大学寮のある町の東部ビルダンデン区へ行ってみると人影すら少なく、自転車だけがいっぱい停めてありました。学生達はそれぞれの故郷へ、あるいは旅行やアルバイトへとルンドを離れていったのでしょう。
スウェーデンの大学といえば、首都ストックホルムから80キロ程北にあるウプサラ大学と南のルンド大学が、長い歴史を有し規模でも国内随一で、二大大学として代表となっています。ルンド大学の創立は1666年と言われていますが、1425年に北欧最初の単科大学としてスタートしたとの説もあり、一方のウプサラがその50年後の1475年ですから古さでも競っています。もっとも、ルンドを含めた南部スコーネ地方は1658年まではデンマーク領だったので、ウプサラ大学が長い歴史を有する北欧最古の大学と主張しているのも頷ける気がします。現在ルンドの人口約10万人のうち、学生数が4万8千人、人口の半分を学生が占めています。
ルンド大学の年間経費は約75億クローナ、日本円で約1100億円と、大企業並みの大きさです。経費の3分の2は研究に使用されてると言われているので、いかに高度の研究や開発がルンド大学で行われているか予想がつくと思います。
今回のルンド訪問は、2年程前に亡くなられた邦人の遺産の1部がルンド大学のパーキンソン病研究部に寄贈される事になったため、研究所へ挨拶に行くのが目的でした。大きい大学病院の裏に20年程前に建てられた医学部研究所BMC(Biomedicinskt centrum)は、周りの古い建物に比べ新しくモダンな感じを与えていました。
パーキンソン病
四肢や身体の震え、硬直などを特徴とする神経系の難病。前屈姿勢で小刻みな独特の歩行を示す。大脳での神経伝達物質ドーパミンの減少によると言われる。高齢者層に多い。イギリスの病理学者パーキンソンが明らかにした。
筆者の訪問を迎え入れてくれたのはパーキンソン研究部長、教授のアンジェラ・チェンシ・ニルソンさん(Angela Cenci Nilsson)、未だ50代前かと思われるとてもはつらつと元気な方で、髪の毛が黒っぽく、同席した同僚のピアさんからイタリア人ですよと紹介されました。「クドウ君、スウェーデン語それとも英語?」と尋ねられ「スウェーデン語の方が楽です」と答えたのですが、最初の30分程の説明では専門語ばかりで殆どが英語でした。当研究所にはアンジェラさんを含め20人の研究者で構成されていて、その内生粋のスウェーデン人は1人だけで後は皆世界中の国籍が混ざっているとの事でした。アンジェラさんのそのエネルギッシュな説明を聞いていたら、もしかしたらポーランド生まれのフランスのラジウム発見者マリー・キュリーもこんな人だったのではと思ってしまいました。
スウェーデンに住み既に20年、もっともそんな個人的な話は殆どせず、「パーキンソン病の薬が10年、20年以内に発見されますか?」との質問にも、「学者として、そういう質問には回答出来ない」と一言、大切な事は今病んでいる人達の症状の緩和、そして今後も出来るだけ軽くしてあげたい。との事でした。
ルンドのパーキンソン研究所は、脳の移植による治療法も行われ近年世界的にも脚光を浴びました。研究所内ではひたすら研究に没頭する学者達ばかりで、皆紳士的に笑顔で「こんにちは」と挨拶、そして直ぐ自分の研究に戻っていました。地下室にある最新の電子顕微鏡を見せてもらうと、丁度マウスを解剖して病菌を移植し、反応を調査しているところでした。1時間程の訪問を終え、10年から20年以内にきっとこのパーキンソン病研究所からノーベル医学賞を貰う人が出るだろうと思いながら家路へとつきました。
2014年6月30日
スウェーデン在住、弘前市出身、工藤信彰