第1号 スウェーデンのリンゴ事情
11月に入り、そろそろ初雪も見られる頃ですが、今年の北欧は例年にない暖かさで、日中は10度を越える日が続いています。紅葉の見頃を終えてしまった土・日曜の休日は、美しかった紅葉の名残惜しさをよそに、あちこちで落ち葉拾いをしている人が見受けられます。ヨーロッパでは1週間程前に夏時間も終わり、夏とは対照的に夜が長くなりつつあり、ぼんやりと窓辺に座って、瞑想にふけりたくなる今日近頃です。『北欧からのお便り ~Life in Sweden~』第一号、今回は私の故郷弘前に合わせ、こちらスウェーデンのリンゴ事情について書いてみましょう。
青森リンゴはシャキッとした食感で甘みがあり、その美味しさから、やっぱり青森県産が一番美味しいと、皆さん感じることでしょう。当地スウェーデンでも、ドイツやイタリア産といった他国のリンゴより、一寸見栄えは見劣りするものの、国産(スウェーデン産)の方がより新鮮で美味しいだけに、喜ばれます。
国産では、秋のリンゴとして、ローボ(LOBO)、カティヤ(Katja)、イングリッドマリー(IngridMarie)、コックスオレンジ(Coxorange)、ジェームスグリヴェ(JamesGrive)等が有名です。最初のローボ、カティヤはスウェーデン名なので古くからあった品種だと思いますが、コックスオレンジやジェームスグリヴェはイギリス、スコットランド原産で現在広くスウェーデンで栽培されている品種です。更にここ5~10年程、「ムツ」と言う名前で、緑っぽく大きい形状の国産リンゴが売り出されています。多分「陸奥」から来た名前だと思いますが、他の国内産より大きく、歯ごたえもあり青森リンゴを思わせます。最も「ムツ」は未だ量産されていないのか、10月上旬の2・3週間だけ売り出され、その後は店頭から姿を消してしまいます。他の国産リンゴはほぼ一年中販売されています。
スウェーデンは南北全長約1500キロの長い国ですが、ほぼ全域でリンゴが栽培されています。特にリンゴの量産地は南スウェーデンで、リンゴジュース工場もあります。
野菜もそうですが、果物の販売も当地ではそのほとんどがバラ売りです。スーパー等ではお客さんが果物売り場で自ら1個1個取り、その場、あるいはレジで目方を計り勘定する事になっています。日本のスーパーの様に野菜、果物の大きさは揃っていませんが、自らの手での感触や新鮮さを確認して購入できます。国産リンゴは品種に限らず皆値段がほぼ同じで訪れたスーパーでは1kg当り24.95クローナ、日本円で約275円位でした。一方外国産が1kg当たり約20クローナ、約220円で国産リンゴは高いわけですが、それでも人気は新鮮でおいしい国産品に集まります。
スウェーデン人にとってリンゴは国民の果物、象徴と言えるかも知れません。国民のリンゴへの愛着は大変深いです。
庶民作家として有名なウィルヘルム・モーベルグ(Vilhelm Moberg,1898-1973)の長編小説にも、リンゴが故郷スウェーデンを彷彿させることが描かれているシーンがあります。
19世紀後半、南部スウェーデンのスモーランド地方からアメリカへ移民したカールオスカーとクリスティーナ夫婦を描いた小説の、その最後の場面です。
夫のカールオスカーは、目の前で今にも息絶えてしまいそうな妻に『クリスティーナ、私たちの庭で採れたリンゴだよ…』とリンゴを手渡すのです。すると、クリスティーナは『(故郷)スモーランド…』と一言、そして戻らぬ人となってしまいます。
スウェーデン人にとって故郷を思い出させる果物、それはリンゴであるということ。このことがスウェーデンの多くの人々に根付いているということが分かります。
私もスウェーデン人の家内も、リンゴには各々愛着がありますから、家でも欠かす事はほとんどありません。最も私は家内に『An apple a day,kill the doctor(1日1個のリンゴは、医者を殺します)』と健康の為に毎日皮を剥いてリンゴを食べる様にしているのですが、兄が医者の家内は『An apple a day,keep the doctor away《1日1個のリンゴは医者を遠ざける》』ですよ、『医者を殺してどうする気ですか…?』と私の下手な英語に呆れつつ、皮も剥かずバリバリと食べています。そんなこんなで、生まれた国は違えど私達夫婦も、日本とスウェーデン両国の特産品であるリンゴで結びついているのかもしれませんね??
2011年11月15日
スウェーデン在住、弘前市出身、工藤信彰